カテゴリー「Dejavu」の投稿

2008年10月 4日 (土)

Dejavu

Dejavu

「花沢類、送ってくれてありがとう」
アパートの階段の前で牧野はいつもこのセリフを言う。
そして俺は決まってこう言うんだ。
「牧野のありがとうは聞き飽きた
 彼氏が彼女を送って行くのは当然だろ」
牧野は恥ずかしそうに顔を赤らめ、俺から視線を外す。

この先の行動は牧野がゴモゴモと独り言を呟くか、ちょっと怒った口調で言い返してくるかで、いつもの行動パターンに俺はクスッと笑いが漏れるんだ。
いつもと変わらない純な牧野の仕草に、行動に・・・。
けど、今日の牧野は俺から視線を外すことも、恥ずかしそうに顔を赤らめることもなくて、ただ俺の顔をじっと見つめるだけで・・・。
予想外の行動に戸惑う。
ヤバイ、笑顔が崩れそうだ。


「牧野、どうかした?」
「・・・花沢類、・・・キスして」
今、キスして・・・って言った?
今まで一度だって牧野からそんな言葉をもらったことがない。
付き合ってると言っても肉体関係がある訳でもないし、あると言えば軽く唇を重ねる程度。総二郎たちに言わせるなら、お子ちゃまレベルってやつで・・・。
俺、喜んでイイのか?
それとも手放しでは喜んでいられない、不吉な前兆なのか?


「こうゆうこと、女の方から言うのって、・・・花沢類はイヤ?」
淡黒の瞳に真っ直ぐに見つめられ、戸惑う俺に真剣に答えを求めてくる。
好きなら当然の行為、男から女からなんて関係ない。
「ううん、牧野から言ってくれて嬉しいよ」
「良かったぁ、変な顔するから花沢類に嫌われたかと思っちゃった」
安堵したように笑みを見せると、俺の胸に体を預けてくる。
こうゆうサプライズなシチュエーションも悪くない。
当然ながら俺の両腕は牧野を包み込む。


俺が牧野を嫌う?
牧野に嫌われることはあったとしても、俺があんたを嫌いになるわけないでしょ。
俺がどれだけあんたを想ってるか、教えてあげるよ。
牧野の体をゆっくりと離し、俺は軽いフレンチキスから深く舌を絡め、戸惑いをみせる牧野の舌を誘導するように強弱をつけて舌先での愛撫を繰り返した。
ゆっくりと唇を離すと、牧野のうっとりとした視線と愛おしむように見つめる俺の視線が絡む。


このまま帰したくない衝動にかられるが、どうにか断ち切ろうと葛藤していると、牧野に手を握られ階段を上るように引っ張られた。
これってお茶の誘い?
それともこの続きの誘い?
俺も男だし、好きな女の部屋に誘われたら後者の方を期待しちゃうよ。

扉を開けるとそこは暗闇で、窓から微かにさし込む月明かりで奥の部屋に辿り着く。
「牧野、電気止められてんの?」
こんな時にからかってどうするんだ。
いつもの牧野らしくないから。
俺が動揺してどうするんだよ。まったく、先手取られると調子が狂う。


「電気は点くわよ、でも今はこのまま、このままで・・・」
徐々に牧野の声が囁きに変わり、俺の首に両腕を絡めてきて柔らかい唇が俺の唇を塞ぐ。大胆な行動に戸惑いながらも、愛する人を求めるように俺は両腕で牧野を抱きしめた。
まさかこんな形で牧野と結ばれるなんて思ってもいなくて、嬉しさや悦びなんて言葉では表現できないほど俺は牧野におぼれていった。


「るい・・・」
「まきの・・・」
俺を感じる度に牧野の口先から漏れる喘ぎ声と、普段は呼んでもらえない名を呼ぶ声にかき立てられ、俺の鼓動と牧野の鼓動が同調していく。
「るい・・・」
フルネームで呼ばれるのは嫌いじゃないけど、やはり〝類〟と名前で呼ばれると愛おしさが増幅される。ましてやこんな状況の中で囁くように言われると、力まかせに抱きしめたくなる。


「るい・・・、あなたのすべてがほしいの
 ・・・抑えることができないの」
「まきの」
今日のあんたズルイよ、俺が言いたいこと取っちゃうし、願ってること叶えてくれるし。
「まきの」
「るい」


「類」
何度も呼び続ける声が徐々に大きくなっていく。
「類!」
「類!いつまで・・・って、こいつ・・・」
「どうしたんだよ?」
俺の腕の中には牧野がいる、温もりも伝わってくる。
急に回りが明るくなったかと思うと牧野の顔が霞んで見えなくなった。
「牧野・・・」
クスクスと微かに笑い声が聞こえる。
牧野が笑ってるの?


「類!」
身体が大きく揺れたかと思うと急に俺の腕の中から牧野がいなくなり、手探りで必死に牧野を探すけど見つからないことに、上気した身体は一気に冷たく冷え、不安の渦に呑まれる。
「牧野?」
返事はない。その代わりにクスクスと押し殺したような笑い声が耳につく。
俺をからかってるの?
今日の牧野はいつもと違った、きっと俺をからかってるんだ。
普段の俺のように。


「類くん、探し物はこれかな?」
そう、この温もりだ。
俺は安心したようにギュッと抱きしめる。が・・・
類くん?・・・・・・探し物?
さっきまで〝類〟って・・・呼んでいたのに・・・。


視界の先には覗き込む2人の顔。左には総二郎、右にはあきら、それぞれニヤつかせた顔があった。俺は訳が分からず瞳だけを左右に動かして2人を呆然と眺めながら、覚束無い思考を巡らす。
「類くん、相当溜まってんじゃねえ?」
「・・・・・・?」
「夢の中で、なんてシャレになんねぇぞ」
夢の中?
そうだ俺は夢を、だから牧野が・・・。


「どうやら理解したようだな」
「なら良いけどよ、クッション離さねえとこ見ると、まだ良く分かってねえんじゃねぇの」
クッションを抱き締めたままの俺を、2人はハイエナのように嗅ぎ回り、まるで俺の夢の中を覗き込んだかのように見透かした瞳を向けてくる。
「類くん、抱き心地は良かったか?」
「総二郎、あの寝顔見たら想像つくだろ」
「そうだよな、最高に幸せって感じの寝顔だったしなぁ」
「どっちも奥手っぽいし、どんな状況でなったのか知りてぇもんだぜ」
左が言い終われば次は右が言い返す、ホントお前らの口の達者さとコンビネーションには負けるよ。
勝手に部屋に入って来て俺の睡眠まで邪魔して、いや、今日は特別で最高の夢だったのに、せめて最後まで見させてくれたら気分は180度違うハズ、だったかも。


「2人して、なんで俺の部屋にいるわけ?」
「やっぱこうゆうのって男からじゃねえ」
「あの牧野が?・・・迫るタマじゃねえよな」
超不機嫌な顔が目の前にありながら、2人は自分たちの世界に入り込んで、俺のことなどまったくの無視だ。
おまけに俺を挟んで両サイドに座る2人は抱き合いながら、どこで覚えたのか知らないけど演劇を始める始末。ワザとらしく溜息を吐こうが、冷やかな視線を向けようがお構いなしに繰り広げられる。


「気持ち悪い!用がないんだったら帰って」
「短気は損気だぞ」
「そうそう、短気は女の子に嫌われる要因の最たるモノだぞ」
「で、なんでここに居るわけ?」
「類が電話に出ねえから来てやったんだよ」
「どうせ寝てるんだろうと思ってさ。
 貴重な俺達の時間を類に与えてんだから、少しは感謝しろよな」
「なんで感謝なの?俺の睡眠時間を奪っておいて」
司の自己中のスケールが桁外れで気付かなかったんだ、こいつらの自己中に。


「お前よく言うぜ、今何時だと思ってんだよ?7時だぜ!
 お子ちゃまでもあるまいし、こんな時間に寝てんじゃねえよ」
「ははぁ~ん、さては体力を蓄えて」
「会うのは決まって深夜なわけで」
「いざという時に備えて」
まるで推理を解くかのように交互に言葉を交わしていく2人の瞳はギラギラと輝いていて、辿り着く先が見えているようだ。
「さては」
「当然」
「あれっきゃないでしょ!」
「「だな!」」
ホント、いいコンビだこと。
言葉を交わさずとも分かり合える関係?
特にいやらしい事と悪戯に関しては尚更脳が良く働く。


「何が〝だな〟だよ?」
聞かなくても大体の想像はつくけど。
「相変わらず機嫌悪りぃこと」
「類、なんか気がつかねえか?」
「・・・・・・?」
思考することさえダルさをよぶ。
余計なことは考えたくない、ただ夢の中での牧野をもう一度見つめたい。今はそれだけだ。
あんな牧野の姿、この先、現実に起こる可能性は?
やっぱ、続き見たかったなぁ。

「ちょっと窮屈じゃねえ?」
「これくらいがイイんだよ、あいつらには」
ベッドから降りた2人は、この部屋にあるはずのないソファに肩をぶつけながら居心地悪そうに座り、何時の間にか用意されたコーヒーを飲みながらそのソファに関して話していた。
「密着度があってってかぁ?・・・けどよ、これじゃあ飲みづらくねえ?」
「あきらが言ったんだろ、これぐらいの狭さがイイってよ」
「総二郎だって言ってたじゃねえかよ
 密着してりゃムラムラがわくってよ」
「これじゃあ、キスしたとしても押し倒すことはできないぞ」
「そうだな。・・・やっぱ、もっとデカイやつにするんだったな」
「でもよ、あいつらのことだ、長さがあると両端に座るんじゃねえ?」
「やっぱ、最初はこのラブソファからが丁度イイんだよ」
「お子ちゃまレベルには」
「「だな」」
2人の討論は終了したらしい。

ベッドに座る俺を挟むように両隣に腰を下ろし、ニヤリとした顔を向ける。
「なに?」
「俺らからのささやかなプレゼントだ、牧野と楽しくやってくれ」
「夢もイイけどよ、現実はもっとイイもんだぜ」
「ちと狭いけど、狭いなりのメリットがあるから
 一度、牧野を座らせてみることだな」
「俺、そんなのいらない」
「「なっ!」」
「・・・そうか、なんで客用の椅子が無いのか、俺気付いちゃったかも
 類くんもやるねェ、床に座らせるわけにはいかないとか言って
 ベッドに座らせりゃ押し倒すのに絶好のシチュエーションだもんな
 類くんもそれなりに考えてんだ、お兄さんは見直したよ」
「・・・・・・!」
押し付ける、勝手に想像して決め付けるこいつらの頭ん中、割って見てみたいもんだよ。


「まっ、とにかくお兄さんたちが納得する結果を期待してっからな」
「俺たちの用意したソファを無駄にするなよ」
「捨てる」
「オイオイ・・・類、お兄さんたちの善意を無にしないでくれよ」
「そうだぞ、俺たちは類の事が心配で心配で・・・」
「そんな親切の押し売りはいらない、ほっといて欲しいんだけど」
「そんな事言わずに、なっ!
 経験豊富な俺らの言う事聞いてりゃうまく行くから」
「イヤだ、捨てる」

俺は再びベッドに寝そべり、あいつらが置いていったソファをぼんやりと眺める。
牧野は相変わらずバイトに追われる日々で、俺は対照的に暇を持て余す日々で、会いたいと思っていても時間がそれを許してくれない。
いくら寝ることやテレビを観ることが好きな俺でさえ限界がある。
好きな女の子のことを考えると会えない寂しさは身に堪える。
やっぱ団子屋行こうかなぁ~。・・・でもなぁ・・・
何かに集中していなと直ぐにこんな事を考えてしまう俺って、牧野でいっぱいなんだどつくづく思い知らされる。そして、俺っていつからこんなに人に対して興味を持つようになったんだろう。
初めて会った非常階段で、衝撃的な出会いが印象的で、俺の中で何かが動き出したんだろうな。
俺の知らないもうひとりの俺に気付いたのは、牧野と出会ってからだから。


〝愛する人に会いたい〟これ以上の理由はない。
だから口実なんて考える必要はないんだ。
俺は会いたい思いを抑えることを止め、団子屋に迎えに行った。

牧野と少しでも長く居たい為に、いつものようにアパートまでゆっくりと足を進める。
「花沢類、送ってくれてありがとう」
アパートの階段の前で牧野は礼を言う。
「牧野のありがとうは聞き飽きた
 彼氏が彼女を送る行くのは当然だろ」
お決まりのようにセリフを返す俺を牧野はじっと見つめてくる。
いつものパターンと違う。


「牧野、どうかした?」
「・・・花沢類、・・・キスして」
確かこのセリフ、また俺、夢見ているのか?
「こうゆうこと、女の方から言うのって、・・・花沢類はイヤ?」
嫌なわけないだろ、けどあの夢もリアルすぎて。
淡黒の瞳を真っ直ぐに向けて俺に真剣に答えを求めてくる牧野は、夢とまったく同じだ。


「ううん、牧野から言ってくれて嬉しいよ」
「良かった。変な顔するから花沢類に嫌われたのかと思っちゃった」
なんで同じセリフなんだ?俺まで同じセリフで返しちゃって。
そんなことを考えていると牧野は俺の胸に体を預けてきた。
今起きていることが夢でも良い、牧野が俺を必要としているんなら、俺も応えたい。
俺は想いを伝えるように何度も軽く唇を重ねた。そして戸惑いをみせる舌を誘導するように、強弱をつけて舌先での愛撫を繰り返した。


うっとりした顔で見つめたかと思うと、俺の指に細い指を絡めて階段を上って行く。
このシチュエーションは・・・。
暗い玄関から奥の部屋へと誘導する牧野の後ろ姿に、俺の高鳴り出した鼓動を静めることを忘れさせる。


「牧野、・・・電気・・・」
「花沢類、・・・お願いがあるの」
言いづらそうにする牧野を見て、俺は細い肩を両腕で包み込む。
「何も言わなくていいから」
耳元でそう囁き、牧野の唇を塞ぐように唇を重ねる。
俺のすべてをあげる、だから何も言わなくていい。
まさか夢が正夢になるなんて、しかも牧野からなんて信じられない。計り知れない嬉しさと愛おしさが次から次へと溢れ出す。
天にも上る思いで愛しい人を抱き締めた。


けど、ひと時の幸福は牧野の言葉によって脆くも崩れる。
「電気、点かないの、直して欲しいの」
でんき?点かないって・・・えっ?
俺の独り善がり?


「蛍光灯切れたみたいなの
 あたし取り替えた事ないし、届かないし、・・・花沢類できる?」
サプライズなシチュエーションじゃなかったの?
〝るい、あなたのすべてがほしいの、抑えることができないの〟
そう言って俺を求めてきたことは・・・、どこへ?


「花沢類、・・・何か期待してた?」
おもいっきり期待したよ。
悪戯っぽく微笑む牧野を見つめ、可愛さあまって憎さ、・・・3倍ぐらいにしておくか。肩透かしを食らってがっくりしたのを悟られるのも癪だし、ここは冷静を装う。
「別に期待してないけど。取り替えてあげるから蛍光灯かして」
取替え作業を終えて点灯を確認する。


少し牧野と話した後、バイトで疲れている牧野を気遣い後ろ髪を引かれる思いを断ち切って俺は玄関へ向かった。
靴を履こうとした瞬間、フッと灯りが消え、前かがみになった俺の背中に温もりを感じた。
「花沢類、・・・帰らないで」
「・・・まきの・・・」
「・・・るい・・・」
夢でも現実でも俺の心を揺さぶって、やっぱ、あんたはズルイよ。
総二郎とあきらには悪いけど、やっぱりあのソファは必要なかったみたい。


でもこれって、・・・夢じゃないよね?


~Fin~

| | コメント (0)