PURE ANGEL[第1章]最終話
最終話
『もしもし、類!元気!何か変わった事ある?』
「プッ!つくし、4日間じゃ何も変わらないよ。俺もみんなも
元気だよ。……あっそういえば総二郎たちが--------------」
約束通りつくしは4、5日に一回のペースで類に電話をしていた。
類はつくしに2日前の出来事を教える。
2日前
「ねぇねぇ、式終わってからどうする?」
目をキラキラさせて落ち着かない滋が話を切り出した。
「お前、嬉しそうだな」
「当たり前でしょ!つくしに会えるんだもん
この機会逃したらいつ会えるか分からないでしょ!」
ムッとして怒り気味に言った滋を宥めるかのように総二郎が言う。
「滋、みんなつくしに会えるのが嬉しいんだよ
ただお前があまりにはしゃいでっからよ」
「それよりどうします?まずは場所決めましょうよ
自宅、別荘、ホテル、クラブ…あと…滋さんのクルーザーとか」
「そうだな、俺的には……」
あきらの言葉を遮るように滋が手を上げる。
「はーい!滋ちゃんの船はどーお
周りの人や時間気にしなくて良いし、それにお泊り自由だし」
滋はニタッと笑いボーッとしいる類の顔を見る。
「おお滋、イイことゆうねぇ
類のことだから二人きりで、なんて考えてんだろ?」
総二郎の言葉に一斉に類を見る。キョトンとみんなを見渡す類に
「ビンゴだな!」とあきらがからかう。
「そうと決まったら作戦ねろーぜ!」
「あれ?先輩っていつ来ていつ帰るんですか?私聞いてないんで
すけど…。それにプロムありますよね?先輩のことですから出
るようなこと考えてないと思いますけど
……誰か聞いてますか?」
桜子の冷静な質問にヤル気満々の総二郎を、いや類以外の人をへ
こませる。
「類!つくしから聞いてんだろ?いつなんだ?」
類に視線が集中する。
「……聞いて、なぃ」
ポツリと呟いた類にみんなは驚き、そして呆れ顔になる。
場所がどうのと言ってる場合ではなくなった。
楽しみを奪われた喪失感に深い深い溜息が漏れたその後、類はみ
んなから責められた。
『そんな話してたんだぁ~。類、ごめんね』
「つくし、いつ帰って来るの?」
『1週間したら帰るから』
「うん。サフランの花咲いたよ、つくしが言った通り」
「ちょっとつくしは?つくしは何処にいるの?」
滋は苛々した様子でみんなに問い掛ける。
「アイツ、……まさか…」
あきらの言葉に類の鼓動が速まる、その場にいたみんなの鼓動も。
「式にはいましたよ、私見ましたから」
「じゃあ、何処に行ったんだ?」
総二郎も苛つきだした。
「取りあえず捜そうぜ」
類はふと思いつきある場所へと急ぐ。
卒業式も無事に終わり、つくしは逃げるように懐かしい場所に来
ていた。
――やっぱここは落ち着くなぁ。ここで初めて類に出会って
初めて類と話した場所。この2年間、ここにいた時間と教室
にいた時間どっちが長いんだろう?ここでいっぱい考えて…
泣いて笑って、…叫んで、…俯いた時間もいっぱいだった
青春の思い出は?なんて聞かれたら、ここだろうな
「非常階段…」
この場所がなければ今の自分はいない。そう思うとこの場所が愛
おしくも寂しくも思える。
「この場所も卒業かぁ…」
類はつくしの姿に安堵し、直ぐに声をかけずに暫く眺めていた。
「つくし、何してるの?」
類は残りの階段を上った。
「あッ類!この非常階段も今日で卒業だなぁって思ってたの」
類は「つくし、お帰り」とキスで迎え「類、ただいま」とつくし
は満面の笑顔で返す。
「つくし早くみんなの所に行かないと
あいつらつくしがいなって騒いでるよ」
類はつくしの手を取りみんなの元へと急ぐ。
「あーッ!つくしーッ!何処に行ってたの?」
滋はつくしを認めると勢い良く抱きついた。
「先輩遅いですよ。ちょっと滋さん、一人占めはダメですよ」
滋を引き離し桜子もつくしに抱きつく。その様子をF3は微笑ん
で眺める。走って来た和也は「つくしちゃーん!」と大声を張り
上げ当然の行為のように抱きつく。
「お前はいいんだよ!」
和也はあきらに頭を叩かれ憮然する。
一同は学園から大河原家所有のクルーザーに場を移す。
パーティー会場に行くと既に正装したF3と和也、そしてカメラ
をいじっている滋がドレスアップしたT3を出迎えた。
「はーい!そこに並んで」
一同は滋が指定した場所に移動する。
「みんな、笑って!」
その声の3秒後にシャッターが落ちて時間が切り取られる。
「つくし、優紀ちゃん、和也、卒業おめでとう!」
F3、滋、桜子は一人ずつに花束を渡す。3人は抱えきれないほど
の花束を貰い感謝の気持ちを伝えた。
「かんぱーい!」から始まり、飲んで、食べて、騒いでのいつ
も通りの展開で時間が流れるか思われたが、今回は趣向が違っ
ていた。
つくしの元にあきらと滋ペアーがやって来た。
「つくし、つくしがいたからあたしは変わることができたんだよ
楽しかったんだよ。あきらにも出会えたし、みんなにも…
遊びに行くからね、何かあったら連絡してね、絶対だよ」
滋はポロポロと涙を流し感謝の気持ちを伝える。
「お前、ほんと大したもんだぜ、俺達をここまで変えたんだから
類のことは任せておけ、つくしは何も心配せずに勉強してこい」
あきらの瞳も薄っすらと滲んでいたが笑顔を見せる。
「あたしは何もしてないよ、あきらと滋さんが自分から変わろう
としただけだよ。今日はありがとう。類のことお願いね」
涙目で語るつくし。
次に総二郎と優紀ペアーが来る。
「人に心曝け出したり、他人のこと考えたり、面倒くせぇって
思ってたけどさ、そうじゃねえんだってお前が教えてくれた
一人の女の子を見るのも悪くねぇなって、お前と類を見てて
思ったぜ。類にはちと試練だろうが、俺らがカバーすっから
つくし早く帰って来いよ、間違っても留年するじゃねえぞ」
総二郎は照れくさそうに語った。
「あたしね、つくしを見てて自分に正直になろうと思ったの
こんなにたくさんの仲間ができて、好きな人と一緒にいられ
てとっても幸せ。この幸せはつくしがいたらこそ今の幸せが
あるの。…つくし、ありがとう。だから類さんを早く幸せに
してあげてね。……何か困ったことがあったら独りで抱え込
まないで、絶対に誰かに相談すること、いいね、つくし
待ってる人達がここにいるんだから…」
涙を零す優紀に総二郎はそっと肩を抱く。
「総二郎、…優紀、自分に正直になってくれてあたしも嬉しいよ
総二郎、優紀はしっかりしているけど強くないから
絶対に泣かせないでよ。優紀のことお願いね、類のことも
何かあったら連絡するから、心配しないで」
次に桜子と和也ペアーが来る。
「私、先輩にひどいことしたのに温かく接してくれて…
先輩の寛大なところ大好きです、お人好しなところも
友達なんていらないって思っていた自分が情けないです
困ったことがあったらなんでも桜子に言ってくださいね
先輩のことだったらなんでしますから
一日も早く帰って来てくださいよ
滋さんといるとケーキばかり食べさせられて困りますから」
桜子は瞳を滲ませ真意を見せるが悪態をつくことも忘れない。
「小学校から一緒だったのに…
つくしちゃんがいないと、……僕、寂しぃ」
涙をいっぱい溜めて悄然する和也はいつまで経ってもつくし
離れしない。
「桜子、優しくなったね。普段は口が悪いのに、…ありがとう
和也君も大学生になるんだからしっかりしなさいよ
桜子に振り回されないように、ビシッと男らしくしなさい」
最後に類がつくしの元に来て肩を抱き寄せる。
「みんなつくしのこと大好きなんだよ」
類は柔らかく微笑んだ。
照れながらも胸の内を明かした仲間は何事もなかったかのよう
にいつもの雰囲気でドンチャン騒ぎをしている。そんな最中、
類とつくしは部屋を抜け出し別室に移動する。
部屋に入ると誰がいつ飾ったのか、みんなから貰った花束が何
ヶ所かに生けてあり、酒くさい空間から一気に花園に迷い込ん
だような感覚につくしの心を和ませる。一方の類の心気は違う
ようだ。
つくしの手を引いてソファに腰掛けると、類は手を繋いだまま
遠くに視線を飛ばし話始める。
「ある日突然、俺の目の前に現れて、簡単に心の中に入ってくる
いつの日からか目で追う自分がいて、胸のざわめきがなんな
のか、自分の知らない感情に戸惑いコントロールができなく
なる。自分が自分でなくなっていくんだ」
つくしと共有した時間の中で心が少しずつ変化していく自身を
振り返る。
「前はさ、ただ生かされたロボットみたいだった、感情も表情も
ないロボット。つくしと出会って、俺は自分の意思で生きてる
って実感するんだ」
――誰でもないつくしだから…
つくしを自分の胸に引き寄せて肩を抱く。
「つくしが生きる活力源であり…天使…〝希望の天使〟なんだ」
自分の知らない感情に戸惑い、時には苦悩することもあったが、
負(マイナス)ばかりではなかった。
何事にも興味や関心を持たないことがどんなに心を喪失し冷し
不幸なことなのか、喜悦や希望を齎すつくしに出会い愛して不幸
も幸福も知る。
「つくし、どんなことがあっても諦めないから。たとえ司の記憶
が戻ったとしても、この天使だけは手放さないから」
つくしを抱く腕に力が篭る。
司とつくしは別れ何も問題はない。しかし、それは司が記憶を失
っていたからで、記憶を取り戻せば以前のようにつくしを一途に
想い、親友だろうが取り返そうとするだろう。
今の類にとって不安や恐れることは、司の記憶が戻ることでは
なく、つくしの気持ちが司に向くことだ。
「つくし…」
この温もりも、この匂いも、あと数時間で無くなってしまう。
「類…」
「つくし、愛してる」
最後の最後までつくしの気持ちを確認したくて、その言葉に
寄り添っていたくて、安心したくて。
類の変化に気付いたつくしは体を離すと凛とした瞳を向ける。
「道明寺の記憶が戻ったとしても、あたしの気持ちは変わら
ない。あたしの帰る場所は類だけだよ、類だけを真っ直ぐ
見続けるから。あたしの気持ち、覚悟して受け止めてよ」
〝クレーム、返品はお断りだからね〟と少し怒った口調で付
言した後、柔らかい表情になる。
「あたしも…、愛してる」
類は自分が思っていたよりつくしに愛されていることを知り
言葉を失う。ただただつくしを見つめる。
互いの顔をなぞり、互いの瞳に愛しい人を焼き付ける。
唇を重ね、狂おしいほどの想いを伝える。
互いの温もりを忘れないように力いっぱい抱き締め合う。
「クレーム?返品?それはこっちのセリフ」
お互い大好きな笑顔を向ける。
つくしは笑顔で旅立ちたいからと見送りを断るが、みんなは
頑として賛成しなかった。だが、つくしの強い要望に負け渋
々了解した。つくしはみんなの思いに感謝し、クルーザーか
ら独りフランスに旅立った。
つくしにとってこれからの2年間は、環境の違い(習慣・言葉)
大学、おまけにチャーム・スクール(美容・服装・話し方等)と、
精神的にも肉体的にも辛くきつい日々を送ることに――
類にとっての2年間は、大学の他に家業の勉強が加わる。
思うように進まない現実に苛立ちや不安が募っていく。また、
普段は気にも留めない言葉に当惑し、苦悩することに――

