カテゴリー「PURE ANGEL[第1章]全15話」の投稿

2008年8月26日 (火)

PURE ANGEL[第1章]最終話

最終話

『もしもし、類!元気!何か変わった事ある?』
「プッ!つくし、4日間じゃ何も変わらないよ。俺もみんなも
 元気だよ。……あっそういえば総二郎たちが--------------」
約束通りつくしは4、5日に一回のペースで類に電話をしていた。


類はつくしに2日前の出来事を教える。

2日前

「ねぇねぇ、式終わってからどうする?」
目をキラキラさせて落ち着かない滋が話を切り出した。
「お前、嬉しそうだな」
「当たり前でしょ!つくしに会えるんだもん
 この機会逃したらいつ会えるか分からないでしょ!」
ムッとして怒り気味に言った滋を宥めるかのように総二郎が言う。
「滋、みんなつくしに会えるのが嬉しいんだよ
 ただお前があまりにはしゃいでっからよ」


「それよりどうします?まずは場所決めましょうよ
 自宅、別荘、ホテル、クラブ…あと…滋さんのクルーザーとか」
「そうだな、俺的には……」
あきらの言葉を遮るように滋が手を上げる。
「はーい!滋ちゃんの船はどーお
 周りの人や時間気にしなくて良いし、それにお泊り自由だし」
滋はニタッと笑いボーッとしいる類の顔を見る。
「おお滋、イイことゆうねぇ
 類のことだから二人きりで、なんて考えてんだろ?」
総二郎の言葉に一斉に類を見る。キョトンとみんなを見渡す類に
「ビンゴだな!」とあきらがからかう。
「そうと決まったら作戦ねろーぜ!」


「あれ?先輩っていつ来ていつ帰るんですか?私聞いてないんで
 すけど…。それにプロムありますよね?先輩のことですから出
 るようなこと考えてないと思いますけど
 ……誰か聞いてますか?」
桜子の冷静な質問にヤル気満々の総二郎を、いや類以外の人をへ
こませる。


「類!つくしから聞いてんだろ?いつなんだ?」
類に視線が集中する。
「……聞いて、なぃ」
ポツリと呟いた類にみんなは驚き、そして呆れ顔になる。
場所がどうのと言ってる場合ではなくなった。
楽しみを奪われた喪失感に深い深い溜息が漏れたその後、類はみ
んなから責められた。


『そんな話してたんだぁ~。類、ごめんね』
「つくし、いつ帰って来るの?」
『1週間したら帰るから』
「うん。サフランの花咲いたよ、つくしが言った通り」


「ちょっとつくしは?つくしは何処にいるの?」
滋は苛々した様子でみんなに問い掛ける。
「アイツ、……まさか…」
あきらの言葉に類の鼓動が速まる、その場にいたみんなの鼓動も。
「式にはいましたよ、私見ましたから」
「じゃあ、何処に行ったんだ?」
総二郎も苛つきだした。
「取りあえず捜そうぜ」
類はふと思いつきある場所へと急ぐ。


卒業式も無事に終わり、つくしは逃げるように懐かしい場所に来
ていた。

――やっぱここは落ち着くなぁ。ここで初めて類に出会って
  初めて類と話した場所。この2年間、ここにいた時間と教室
  にいた時間どっちが長いんだろう?ここでいっぱい考えて…
  泣いて笑って、…叫んで、…俯いた時間もいっぱいだった
  青春の思い出は?なんて聞かれたら、ここだろうな

「非常階段…」
この場所がなければ今の自分はいない。そう思うとこの場所が愛
おしくも寂しくも思える。
「この場所も卒業かぁ…」

類はつくしの姿に安堵し、直ぐに声をかけずに暫く眺めていた。

「つくし、何してるの?」
類は残りの階段を上った。
「あッ類!この非常階段も今日で卒業だなぁって思ってたの」
類は「つくし、お帰り」とキスで迎え「類、ただいま」とつくし
は満面の笑顔で返す。
「つくし早くみんなの所に行かないと
 あいつらつくしがいなって騒いでるよ」
類はつくしの手を取りみんなの元へと急ぐ。


「あーッ!つくしーッ!何処に行ってたの?」
滋はつくしを認めると勢い良く抱きついた。
「先輩遅いですよ。ちょっと滋さん、一人占めはダメですよ」
滋を引き離し桜子もつくしに抱きつく。その様子をF3は微笑ん
で眺める。走って来た和也は「つくしちゃーん!」と大声を張り
上げ当然の行為のように抱きつく。
「お前はいいんだよ!」
和也はあきらに頭を叩かれ憮然する。

一同は学園から大河原家所有のクルーザーに場を移す。
パーティー会場に行くと既に正装したF3と和也、そしてカメラ
をいじっている滋がドレスアップしたT3を出迎えた。
「はーい!そこに並んで」
一同は滋が指定した場所に移動する。
「みんな、笑って!」
その声の3秒後にシャッターが落ちて時間が切り取られる。

「つくし、優紀ちゃん、和也、卒業おめでとう!」
F3、滋、桜子は一人ずつに花束を渡す。3人は抱えきれないほど
の花束を貰い感謝の気持ちを伝えた。
「かんぱーい!」から始まり、飲んで、食べて、騒いでのいつ
も通りの展開で時間が流れるか思われたが、今回は趣向が違っ
ていた。

つくしの元にあきらと滋ペアーがやって来た。

「つくし、つくしがいたからあたしは変わることができたんだよ
 楽しかったんだよ。あきらにも出会えたし、みんなにも…
 遊びに行くからね、何かあったら連絡してね、絶対だよ」
滋はポロポロと涙を流し感謝の気持ちを伝える。

「お前、ほんと大したもんだぜ、俺達をここまで変えたんだから
 類のことは任せておけ、つくしは何も心配せずに勉強してこい」
あきらの瞳も薄っすらと滲んでいたが笑顔を見せる。

「あたしは何もしてないよ、あきらと滋さんが自分から変わろう
 としただけだよ。今日はありがとう。類のことお願いね」
涙目で語るつくし。

次に総二郎と優紀ペアーが来る。

「人に心曝け出したり、他人のこと考えたり、面倒くせぇって
 思ってたけどさ、そうじゃねえんだってお前が教えてくれた
 一人の女の子を見るのも悪くねぇなって、お前と類を見てて
 思ったぜ。類にはちと試練だろうが、俺らがカバーすっから
 つくし早く帰って来いよ、間違っても留年するじゃねえぞ」
総二郎は照れくさそうに語った。


「あたしね、つくしを見てて自分に正直になろうと思ったの
 こんなにたくさんの仲間ができて、好きな人と一緒にいられ
 てとっても幸せ。この幸せはつくしがいたらこそ今の幸せが
 あるの。…つくし、ありがとう。だから類さんを早く幸せに
 してあげてね。……何か困ったことがあったら独りで抱え込
 まないで、絶対に誰かに相談すること、いいね、つくし
 待ってる人達がここにいるんだから…」
涙を零す優紀に総二郎はそっと肩を抱く。


「総二郎、…優紀、自分に正直になってくれてあたしも嬉しいよ
 総二郎、優紀はしっかりしているけど強くないから
 絶対に泣かせないでよ。優紀のことお願いね、類のことも
 何かあったら連絡するから、心配しないで」

次に桜子と和也ペアーが来る。

「私、先輩にひどいことしたのに温かく接してくれて…
 先輩の寛大なところ大好きです、お人好しなところも
 友達なんていらないって思っていた自分が情けないです
 困ったことがあったらなんでも桜子に言ってくださいね
 先輩のことだったらなんでしますから
 一日も早く帰って来てくださいよ
 滋さんといるとケーキばかり食べさせられて困りますから」
桜子は瞳を滲ませ真意を見せるが悪態をつくことも忘れない。


「小学校から一緒だったのに…
 つくしちゃんがいないと、……僕、寂しぃ」
涙をいっぱい溜めて悄然する和也はいつまで経ってもつくし
離れしない。


「桜子、優しくなったね。普段は口が悪いのに、…ありがとう
 和也君も大学生になるんだからしっかりしなさいよ
 桜子に振り回されないように、ビシッと男らしくしなさい」


最後に類がつくしの元に来て肩を抱き寄せる。
「みんなつくしのこと大好きなんだよ」
類は柔らかく微笑んだ。

照れながらも胸の内を明かした仲間は何事もなかったかのよう
にいつもの雰囲気でドンチャン騒ぎをしている。そんな最中、
類とつくしは部屋を抜け出し別室に移動する。

部屋に入ると誰がいつ飾ったのか、みんなから貰った花束が何
ヶ所かに生けてあり、酒くさい空間から一気に花園に迷い込ん
だような感覚につくしの心を和ませる。一方の類の心気は違う
ようだ。

つくしの手を引いてソファに腰掛けると、類は手を繋いだまま
遠くに視線を飛ばし話始める。
「ある日突然、俺の目の前に現れて、簡単に心の中に入ってくる
 いつの日からか目で追う自分がいて、胸のざわめきがなんな
 のか、自分の知らない感情に戸惑いコントロールができなく
 なる。自分が自分でなくなっていくんだ」
つくしと共有した時間の中で心が少しずつ変化していく自身を
振り返る。


「前はさ、ただ生かされたロボットみたいだった、感情も表情も
 ないロボット。つくしと出会って、俺は自分の意思で生きてる
 って実感するんだ」

――誰でもないつくしだから…

つくしを自分の胸に引き寄せて肩を抱く。
「つくしが生きる活力源であり…天使…〝希望の天使〟なんだ」

自分の知らない感情に戸惑い、時には苦悩することもあったが、
負(マイナス)ばかりではなかった。
何事にも興味や関心を持たないことがどんなに心を喪失し冷し
不幸なことなのか、喜悦や希望を齎すつくしに出会い愛して不幸
も幸福も知る。


「つくし、どんなことがあっても諦めないから。たとえ司の記憶
 が戻ったとしても、この天使だけは手放さないから」
つくしを抱く腕に力が篭る。


司とつくしは別れ何も問題はない。しかし、それは司が記憶を失
っていたからで、記憶を取り戻せば以前のようにつくしを一途に
想い、親友だろうが取り返そうとするだろう。
今の類にとって不安や恐れることは、司の記憶が戻ることでは
なく、つくしの気持ちが司に向くことだ。


「つくし…」
この温もりも、この匂いも、あと数時間で無くなってしまう。
「類…」
「つくし、愛してる」
最後の最後までつくしの気持ちを確認したくて、その言葉に
寄り添っていたくて、安心したくて。
類の変化に気付いたつくしは体を離すと凛とした瞳を向ける。


「道明寺の記憶が戻ったとしても、あたしの気持ちは変わら
 ない。あたしの帰る場所は類だけだよ、類だけを真っ直ぐ
 見続けるから。あたしの気持ち、覚悟して受け止めてよ」
〝クレーム、返品はお断りだからね〟と少し怒った口調で付
言した後、柔らかい表情になる。
「あたしも…、愛してる」
類は自分が思っていたよりつくしに愛されていることを知り
言葉を失う。ただただつくしを見つめる。


互いの顔をなぞり、互いの瞳に愛しい人を焼き付ける。
唇を重ね、狂おしいほどの想いを伝える。
互いの温もりを忘れないように力いっぱい抱き締め合う。


「クレーム?返品?それはこっちのセリフ」
お互い大好きな笑顔を向ける。


つくしは笑顔で旅立ちたいからと見送りを断るが、みんなは
頑として賛成しなかった。だが、つくしの強い要望に負け渋
々了解した。つくしはみんなの思いに感謝し、クルーザーか
ら独りフランスに旅立った。


つくしにとってこれからの2年間は、環境の違い(習慣・言葉)
大学、おまけにチャーム・スクール(美容・服装・話し方等)と、
精神的にも肉体的にも辛くきつい日々を送ることに――

類にとっての2年間は、大学の他に家業の勉強が加わる。
思うように進まない現実に苛立ちや不安が募っていく。また、
普段は気にも留めない言葉に当惑し、苦悩することに――


| | コメント (0)

2008年8月25日 (月)

PURE ANGEL[第1章]第14話

第14話


「つくし、こっちにおいで」
ソファに座り手招きする類の隣につくしは腰を下ろす。
「ちょっと早いけど、バースデープレゼント」
類はフォトフレームを差し出す。
「ありがとう。あれ?…これ…」
フォトフレームには既に一枚の写真が納められていた。
「温泉の帰り青山で撮ったでしょ」

――そうだった、類と初めて撮った写真。あの時撮った写真が…

写真を撮る時、類がどのような表情をしていたのか分からなかっ
た。写真の中での類はとても幸せそうに笑っている。
つくしの大好きな顔だ。


「つくし、あと5枚分あるでしょ?全部予約済みだからね
 ここは卒業式の分で、つくしと俺
 もう1枚はメンバー全員で、残り3枚は、……内緒」
空白の部分は既に何を納めるのか決まっているようだ。
楽しそうに説明する類を見て自然と笑みが零れるが、表情とは
裏腹に胸が苦しくなる。
「類、楽しみが増えるってイイね。ありがとう」


少し沈黙が続いた後、類は呟くように話し始める。
「つくしといると、このままずっと続くんじゃなかって…。正直
 現実を受け入れられないんだ、どうしようもなく不安で…
 見えない夢を追いかけているんじゃないかって。写真は自分へ
 の気付かせと、自分への勇気…自分への未来のため、かな」
「明日が見えないようなこと考えちゃダメだよ。類の心って
 自分で考えているよりずっと強いんだから。傷ついた心さえ
 忘れてしまうほど、類はあたしをかえてくれたんだよ
 今まであたしに言ってくれた類の気持ち、全部持って行くから
 あたしは悲しくないよ、類がいるから」

――悲しくないなんて本当はウソだ、類が傍にいないなんて想像
  できないよ、自分がどうなっちゃうか…、それでも自分の
  知らない世界を一つでも見てみたい

不安要素はたくさんあるが、それをいくら考えたところで答えが
でる問題ではない。前に進まなくては解決も改善もしない。


「俺のことを思って言ってくれたんだろ
 つくしに負担かけないように、コントロールできるように
 俺頑張るから、空港で泣かないでね。もしつくしが泣いたら
 俺……行かせない!……俺だけに向ける笑顔で見送りたい」
眉をひそめていた類だったが最後には笑みを見せる。
「自分で決めたことだから絶対に泣かないよ
 あたしの好きな笑顔で見送ってね」
「つくし、やばい!もう11時過ぎてる
 きっとみんな待ってるよ、行こう」

フランスに旅立つ前日つくしは花沢邸を訪れる。
葵と挨拶を済ませ類の部屋に来ていた。

「今日は類にプレゼントを持ってきたの」
つくしは床に座り紙袋からゴソゴソと出し始めた。
「プッ!ずいぶんとたくさんあるね」
「いいから、今から説明するからちゃんと聴いててよ」
「はい、はい」
類も床に腰を下ろすとつくしの手先に視線を集中させる。


「このカゴの中にサフランの球根を入れるでしょ。これは
 お水を与えなくても良いんだよ、そのままにしても育つから
 この花言葉はね〝楽しみ〟なんだって。卒業式に帰って来る
 頃には花が咲くと思うから、それまで楽しみに待ってて」
「本当に水やんなくていいの?」
「うん、大丈夫。次にこれ、子宝草(幸福の葉っぱ)っていうの
 ちょっと意味は違うんだけど…。この大きい葉っぱの縁に小さ
 い子どもがいっぱい増えてくるからね。お水は4、5日に一回で
 いいから。類がお水をあげる頃、フランスから電話するからね
 大きい葉っぱに子どもが全部つく頃に、あたし類の所に帰って
 来るから、類それまで待って。……待っててほしい」

つくしは一気に淡々と説明する中、類は顔を下げたまま複雑な思
いで植物を見ていた。
「類…、類…」
「……うん、分かった。つくしだと思って大切に育てるよ」
類の返事に安堵し、日当たりの良い窓際に植物を置き後片付けを
始める。そんなつくしの動作を類はじっと眺めていた。

――本当に行っちゃうんだね、これが現実なんだね、つくし…

数十分前まではベッドとテレビだけの殺風景ないつもの空間だっ
た。今はつくしが置いた植物がある。その植物をつくしはどんな
気持ちでここに持ってきたのかは分からないが、類にとってその
植物は〝愛しい人の身代わり〟〝愛しい人はいない〟と嫌でも現
実を叩きつける代物に見える。


床に座ったまま微動だにしない類をベッドに座らせつくしは前に
跪く。
「類、永遠の別れじゃないんだからそんな顔しないの
 確かに2年は長いけど、必ず類の所に帰って来るから
 絶対に類の所に帰って来るから、約束するから
 あたしには類しかいないから、類でなきゃダメだから、ね
 待っててくれるよね?」
大きな黒い瞳はビ-玉みたいな瞳を捕らえ、心から願い求める。

類はつくしを力いっぱい抱き締める。
「本当に俺の所に帰って来るんだね?
 俺もつくしでなきゃダメだから。俺、……俺待ってるよ」
類はつくしの体を離し唇を重ねる。
甘く、切ない、キス。


空港にて
つくしは満面の笑顔で「行って来ます」と
「気をつけて行っておいで」と類は天使の微笑みで見送る。
また近いうち(卒業式)に会えることも手伝ってかみんなの心は
軽く、労いの言葉をかけて笑顔で見送る。
遠のいていくつくしの姿が完全に視界から消えるまでみんなは
動かなかった。

そしてもう独り…。

つくしの満面の笑顔に魅了されて動くことが出来ずにいた人物
がいた。その人物に誰ひとり気付く者はいない。


| | コメント (0)

PURE ANGEL[第1章]第13話


第13話

滋はアパートでレポートを書いていたつくしを強引にホテルに連れ
出した。ヘアー、メイク、ドレスと流れ作業のように手際良くつく
しを変身させると、最上階スイートルームに移動する。
滋が扉を開けると、つくしの目の前にはドレス姿、タキシード姿の
正装したメンバーが笑顔で迎える。

「ちょっと強引だったけど、このぐらいしないとつくし来てくれな
 いんだもん。今日はパァーッと騒ごう。ねッ!つくし!」
つくしはフランスに向けて準備が忙しくなり、仲間から定期的に誘
いの連絡を受けていたが、会いたい気持ちを抑えその都度断ってい
た。
フランスに行くまでの僅かな時間は自分だけではなく、同じくここ
にいる仲間にも僅かな時間だと気付く。
「滋さん、ありがとう。みんなもありがとう」
みんなの優しさが伝わりつくしの胸を熱くさせ涙目になる。
「つくし先輩、早く、乾杯しますよ」

「メリークリスマス!今日のよき日にカンパーィ!」
みんなは一気にシャンパンを飲み干す。
「つくし、メリークリスマス。すごく綺麗だよ」
優しく微笑む類。
「類、メリークリスマス
 ……ありがとう。あたしみんなの気持ちが嬉しくて」
目に零れんばかりの涙を溜めるつくしの肩を類はそっと抱く。

「ちよっとそこ!今からラブラブモ-ドはダメだよ!
 つくし、こっちに来て一緒に食べよ」
滋は類の傍から強引につくしを引き離し、たくさんの料理を乗せ
た皿を差し出す。そんな二人を尻目に桜子は小悪魔的な笑みを類
に向ける。
「先輩はみんなのモノですから
 一人占めは夜まで待っててくださいね」


「あきら、彼女たちにご自慢のカクテル作ってやれよ」
「おお、まかしておきな」
あきらは総二郎にウインクをすると作り始める。
「類、今日ぐらいはつくしを解放してやれよ
 でなきゃあいつらに何されっか分かったもんじゃねえぞ」
「俺は別に…」
「類くん、夜は長いんだぜ!ちゃんと考えてっからよ」
ニヤリと笑う総二郎に類はぷいと横を向く。


「つくし、フランスまであと少しだね。類さんに限ってないと思う
 けど、周りが…。待ってる約束したんでしょう?」
「優紀、大丈夫だよ。お互い必要としている相手だから
 優紀もでしょ?」
「先輩、のろけですか?
 私がきちんと見張っておきますから心配ご無用ですよ」
「桜子なんて和也を手懐けちゃって、まるでペットみたーい」
げらげらと笑う滋を桜子はぎろっと睨む。
「滋さん失礼ですよ、ペットだなんて…」
「そうだ、僕はペットだぁー!」
完全に酔っている和也に女性陣は大笑いする。


「彼女たち、カクテルができたぜ、こっちに来いよ
 純粋なつくしには、ホワイト。純真な優紀ちゃんには、ピンク
 パワフルな滋には、レッド。子悪魔な桜子には、パ-プル
 俺の自信作だからな、味わって飲めよ」
あきらは一人ずつ手渡した。
類は美味しそうに口に運ぶ女性陣を見て、正確にはつくしを見て
あきらに注文する。
「俺も飲みたい」
「う~ん、本当なら女性にしか作らねぇんだけど
 類の頼みとなれば仕方ねぇな。…お前達の分も作ってやるよ」

暫くして男性陣の前にも、あきら特製カクテルが並んだ。
「自然的な類には、グリーン。感照的な総二郎には、ブルー
 気快的な和也には、イエロー。そして俺は情熱的なオレンジだ」
「ちょっとつくし…、滋さん…、和也くん…、大丈夫?」


あきらのスペシャルカクテルはフルーティーで喉越しがよかった
ようだ。すっかり酔いが回った3人はソファに重なるようにぐっ
たりと座り何語か分からない言葉を発している。
「今日はこれでお開きとしよう
 明日、目が覚めた順にここに集合ってことで」
あきらの言葉にみんなは各部屋に散った。

「あたしシャワー浴びてくる……お化粧…落とさなきゃ」
一歩あるいて二歩下がる状態のつくしを類は笑いながら暫く眺め
ていた。
「酔っ払って風呂に入ると危ないよ。俺も付き合うから」
「え―――ッ!!」
「倒れてケガでもしたらどうするの?……早くおいで」


ふと目が覚めたつくしは目がテンになる。類の胸の上に顔を埋め
て寝ていたからだ。
――え?なに?……ふ・・く・・は?
つくしは重い体を起こし〝えーッ!〟と叫び頭を抱え込んだ。
「さむぃ。……つくし、……どう・・したの?」
類はボーッとしているらしい。
「類どうなってるの?……お風呂は?」
「つくし、……ねむ・・ぃ」
「類、説明して」
「………Zzz…」
類の顔に自分の顔を近づけ返事を待つが、一向に返ってくる気配が
ない。キスをすると目覚めることを思い出し類の額に唇を当てる。
「ね~類、どうなってるの?」
「……額じゃ……ダメ」
「……え?」
「唇にしないと、……説明できなぃ」
寝ていてもからかうことを忘れない類につくしは仕方がなく唇にキ
スをする。

「つくしが俺に髪洗ってほしいって言うから、洗ってやった
 俺がつくしの髪を乾かしてたら、あんた寝ちゃったの
 バスロ-ブ着てたけど、熱いって言って自分で脱いだ
 途中で寒くなったのか、俺に抱きついてきた、以上」
「ごめん……お世話になりました」
深々と頭を下げるつくしを類は自分の下にし両腕を頭上に制
する。
「俺、目覚めた。つくし、責任とってくれるよね」
意地悪そうな瞳を向け背けるつくしの顔を自分に向けると、
類はゆっくりと唇を落とす。
二人の甘い世界の始まりだった。


| | コメント (0)

PURE ANGEL[第1章]第12話

第12話

十和田湖に来て二日目

今、二人はどちらの道を進むか迷っていた。
一つは男の道(勾配がきつく、石がごろごろと剥き出しになった険
しい道)もう一つは女の道(勾配が少なく歩きやすいが、男の道よ
り少し距離が長い道)

「類、どっち行くか決めた?あたしは決めたよ」
「俺も決めた」
「じょあさぁ、一緒に言おう」
「「女の道」」
お互い顔を見合わせ笑い合う。
「昨日きつかったから、一緒に行こう
 それにつくしと離れたくないし」
二人は手を繋ぎ肩を寄せ合い頂上を目指す。


「類見て、神社があるよ。この神社って縁結びなんだって」
つくしは五円玉を類に渡すと賽銭箱に向けてお金を投げた。類も
つくしの真似をしてお金を投げる。
パンパンと手を叩き心願する。

――無事に留学を終えることが出来ますように
  類と--------------------------ように

類はちらりとつくしの様子を窺ってから心願する。
―― ----------------------------ように


乙女の像を見て、遊覧船から間近に見る紅葉も満喫した。
おみやげ屋で類が昨夜言っていた味噌焼ききりたんぽを試食。
味に満足したつくしは、みんなのおみあげとしてきりたんぽを
購入し、二人は部屋に戻った。


腰を下ろす間もなく類はつくしの背後から両腕を回す。
「つくし、お風呂に入ろう」
昨日と同じシチュエーションに一瞬ドキリとするが、昨日は妄
想して誤解してと羞恥したことを思い出し、了解の意味で頷く。
〝今日は素直だね〟そう囁いてある場所を指差す。意表をつか
れたつくしの顔はどんどん赤く染まっていく。
「えーッ、うそ……。類、恥ずかしいよ」
「誰にも見られないから、つくしと一緒に入りたいの
 ねェ~つくし良いでしょう?つくし~~」
自分の方に向けさせたつくしを、類は甘えた口調で同意を求める。

類はつくしと付き合うようになってから、喜怒哀楽がよく表に出
るようになった。そしてもう一つ“甘える”という感情も。
甘える類の姿は可愛くも愛しくもあり、その感情が自分だけに向け
られることがとても嬉しかった。だから当然断るということは…。
「分かったから、後ろ向いててよ」
「はい!はい!」


二人は露天風呂の湯につかり、目の前に広がる景色に釘付けとな
る。黄色や橙色や赤に配色された木々の葉は、湖に吸い込まれそ
うな深い群青色と対照的だ。

「夏、花火大会があるんだって
 ここからの眺めだったら最高だろうね」
肩を並べて景色を眺めていると類がポツリと言う。湖に視線を
向けたまま類は言葉を続けた。
「俺さ、幼い頃からずっとあいつらと一緒で、どこに行くにも
 あいつらが全部決めて、俺はただついて行くだけ。どっかに
 行きたいなんて思ったこともなかったから、何処でもよかっ
 たけど…。初めてなんだ、一緒に行きたい、連れて行きたい
 って思ったのは…。つくしといて、心も体も隠す必要ないん
 だって、俺自身を曝け出せるんだ。……殻に籠もってたのに…」

類はつくしの背後からそっと腕を伸ばすと、再び言葉を続ける。
「ここに来てつくしと同じ時間を共有して、俺つくづく思った
 つくしを放したくない、放れたくないって
 こうしていつも寄り添っていたいって…」
類の切実な想い。


類に会えなくなることは、寂しく癒しを失うこと。でも、それを
決めたのは自分自身であり納得もしている。それに対して類はど
うだろう。寂しく癒しを失う他につくしによって知った感情や表
情までも失いかねない。
無理に納得し限られた時間を大切にすればするほど本心が表れ、
楽しい、嬉しい、癒される、と感じる瞬間が多ければ多いほど手
放せなくなる。

「類、辛い思いさせてゴメんね。どこにいてもあたしは類と
 同じ気持ちだってことは忘れないで。類だけを愛してる」
つくしは類の頬を両手で包み唇を寄せる。

三日目

今日はつくしの都合上どこにも寄らず真っ直ぐ東京に戻って来た。
只今、青山通りを走る車に二人はいる。
類は何かを見つけて突然車を停車させ、つくしの腕を掴んで店へ
入って行く。
「はーい、笑って笑って!そのままですよ」
店主が言った後にパシッ、バシッと音がする。
夕方には出来上がります、と店主の声を聞いて店を出た。
「類、ありがとう、とっても楽しかった
 あたしここでいいから、ちょっと寄って行きたい所もあるし」
「本当にここでいいの?」
「うん。類、またね~」
笑顔で手を振り二人は店の前で別れた。
その様子を偶然目にし、つくしの元へと急ぎ足で向かって来る人
物がいた。


「よぉ、話しがあるんだけど」
つくしは声のする方へ振り返り驚く。目の前に司が立っていたか
らだ。
「おい!聞いてんのか?話しがあるからちょっと付き合ってくれ」
司は呆然としているつくしの腕を掴み車に乗せる。


車の行き先は道明寺邸で、今つくしは懐かしい司の部屋で高級な
ソファに腰掛けている。
「お前、フランスに行くのか?」
司は向かい合わせ座ったつくしを凝視する。
「……え?何いきなり、…なんで知ってるのよ?」
「大学のカフェであいつらが言ってんの聞こえたんだよ
 ……で、行くのか?」
なぜここに連れて来たのか、なぜそんなことを聞くのか理解でき
ないつくしは鋭い目付きで司を見る。
「行くわよ!話しってこれのこと?」


「良く分かんねえけど、最近気になるんだよ
 海がうまそうに食ってる顔、海が笑ってる顔が
 ……なんか違うって、…俺が覚えてる顔じゃねえってよ」
司はそこまで言うと逸らしていた視線をつくしに向け言葉を続ける。
「退院祝いの日、お前ここ出て行くとき俺に笑ったよな
 あの笑顔が懐かしいって最近思うんだよ。お前のこと何一つ
 思い出してねえのに…。…………類と上手くいってんだなぁ」

「初めてだね、入院以来道明寺と普通に会話するの。道明寺が刺
 されてどうなるかと思ったけど、ほんと元気になって良かった
 類とは真面目に付き合ってるよ、上手くいってるし
 道明寺には海ちゃんがいるでしょ、上手くいってんの?」
「あぁ。…………今まで悪かったな」
司は小さな声で謝罪した。

「アハハハッ…。アンタでも謝ることあるんだね
 別に良いよ、もう済んだことだし、支えてくれた人達がいたから
 道明寺も早くF3と仲直りしたら、大切な親友でしょ?」
「……あぁ」
司は遠くを見つめたままそれ以上何も口にしなかった。


司の意図が分からなくて不安にも感じたが、今のつくしはとても
穏やかだった。
一時期はつくしの心は惨殺され正気を失いかけたが、司に対して
憎しみや恨みは持っていない。司に出会わなければ類も今の友人
らの出会いもない。温もりも癒しも絆も愛も無。

| | コメント (0)

PURE ANGEL[第1章]第11話

第11話

つくしは忙しくて一週間類に会えずにいた。その埋め合わせとし
て、二泊三日の温泉旅行に行くことになった。
つくしと類は只今、機内の中。

「ねぇ類、青森って…、どこに行くの?」
「十和田湖。国内でも有数の紅葉の名所でね
 観光客に人気があるんだって」
十和田湖でも中湖は鳥帽子岩、五色岩と自然の造形美に優れたス
ポットで人気がある。と類は付言した。
「へぇー、十和田湖?…紅葉?」
「そう。遊覧船に乗りながらの紅葉もいいし、標高580メ-ト
 ルのかん湖台から見下す紅葉も格別らしいし
 行き先はつくしに任せるよ」
嬉しそうに説明する類を見て、つくしも自然と笑顔になる。
「へェー、ずいぶん詳しいね。行ったことあるの?」
「ないよ。テレビで見た、人気スポットだって、…温泉付いてるし」

――さすがテレビっ子!それにしてもこのボンボンが紅葉?
  いやいや、紅葉はオマケで、温泉がキャラメルでしょう

「クククッ…。つくし、百面相してる」


三沢空港に到着し車で十和田湖に向かう。
途中、奥入瀬渓流で車を降り、二人は遊歩道を歩くことにした。
類の説明通り観光客の人数は半端じゃなく多かった。
「すごい人だね!」
つくしは興奮気味に辺りを見渡す。落ち着きがない様子は迷子の
ようにも見える。
「クククッ…。つくし、迷子にならないでね
 ここじゃアナウンスは無理だからね」
類は心配しつつも元気ではしゃぐ姿が可愛くてついからかう。
植物公園での事を言っているのだと直ぐに理解したつくしは、顔
を赤くしバツが悪そうに類から顔を背ける。
「こうすると迷子にならないでしょ」
類はつくしの手を取るとしっかりと握り締める。
「うん!」

「ぅわあー滝だぁ!あっちにも滝がある」
赤や黄に染めるヤマモミジやカツラやブナなど、秋色に化粧を施
した木々の葉は数ヶ所にある滝を鮮やかに惹きたてる。
まさに絶景だ。
自然が演出した色合いに観光客は感嘆の声を上げる。

「あの人、絵書いてるよ。…油絵?あの人はカメラマンかなぁ~
 こんなに綺麗だなんて初めて知ったよ、類が言った通りだね
 紅葉バッチリ!空気は澄んでる!景色最高!」
つくしは見たものが直ぐに言葉となる、凄いはしゃぎぶりである。
そんなつくしを見て類は満足そうに顔をほころばせる。
「だから言ったろ!」


暫く歩くとつくしの足がピタリと止まり、木に凭れかかった。
「ねぇ~、この道ってどこまで続くの?
 はっきりいってあたしの足でも無理だよ」
「プッ!つくしが寄り道ばっかするからでしょ
 もう少し先に休憩所があるから。さあ、がんばろ、つくし」


遊歩道を2時間かけてようやく休憩所に到着した。そこから車で
ホテルに向かう。ホテルまではS字のような道を上っては下がる
といった山道を数十分走った所にある。木々に茂る枝葉は道路を
トンネルのように覆い、角度によって木漏れ日が射し込む。

ホテルに到着した二人はチェックインを済ませ部屋に入る。
部屋中を歩き回りチェックするつくしの足があるモノを見てピタ
リと止めた。
「ぅわぁ、ちょっと類!」
「どうしたの?」
「これ見て、……これって…」
「露天風呂」

テラスには十和田湖が一望できる露天風呂が付いていた。
類の楽しみはつくしの笑顔とこの露天風呂に入ること。


「つくし顔真っ赤だよ」
類のからかいが始まる。
「つくし、お風呂行こう」
つくしの背後から抱きつき、わざと耳元で囁く。
「……え?」
「お、ふ、ろ」
背中越しからと重ねられた手は熱を感じ、耳元では囁く声と息を
感じ、妄想はあらぬ方向へと進んでいきおもいっきり慙愧する。

予想通りの反応を示すつくしに満足した類は笑いのツボに入る。
類の笑い声にハッとしたつくしはそこでからかわれたのだと気付
く。そしてもう一つ、お風呂と言って連れられた先が大浴場だっ
たことに。

部屋に戻ると夕食の準備が整っていた。
「ぅわあーすごーい!こんなに食べられるかなぁ
 ……あれ?これなんだろう?」
つくしは不思議そうに指差した。
「これはきりたんぽ
 ここに来たらきりたんぽ鍋と虹鱒の塩焼きを食べないとね」
「ああ、これってお米でできてるやつでしょ?」
「正解。きりたんぽに味噌つけて焼いたのも
 この近くの店で売ってるんだって。明日、食べてみよう」
「へぇ~、そんな物があるんだ、焼きおにぎりみたいだね」
「………?」

海の幸、山の幸に舌鼓する。
二人は満腹と疲労感で倒れ込むように夢の世界へと旅立つ。


| | コメント (0)

PURE ANGEL[第1章]第10話

第10話

「どっかでお茶しよ」
滋は〝カフェはカフェは〟と呪文のように呟きながら辺りを見渡
す。視界範囲以内に店がないと分かり先に進んだ。

朝早くから付き合わされたあきらの体力は限界に近く、やっと一
息つけると安堵したのも束の間、遠のいていく滋に虚脱する。
「滋、勘弁してくれ。追いかけっこの趣味はねぇんだけど…」
いっそのこと〝逃げるか?〟そんな考えも浮かんだが直ぐに頭を
振り、滋を追う。

「滋、何やってんだ?」
歩道から少し置くに構えるカフェを、滋は隣接するビルに身を隠
して覗き込んでいる。あきらは滋の視線の先に何があるのか確認
しようと足を踏み出す。が、もの凄い力で腕を引っ張られてよろ
めく。
「なっ!滋、危ねぇだろ」
「それどころじゃないんだってば」
あきらのことは全く気にしていないようだ。その証拠に、滋の視
線は一度あきらを見ることなくカフェの一ヶ所に集中している。
「ちょっと、あそこ見て」
指差す方向を辿ったあきらはやっと滋の行動を理解する。二人は
顔を見合わせてニヤリと笑うと店内に入って行く。

「よぉー総二郎、優紀ちゃん。…もしかしてデート?」
あきらは睦ましく会話を楽しむ総二郎と優紀に声をかけた。
「お茶しようと思ってたら偶然お二人さんを見掛けてさ
 ……で、なんでお二人さんは一緒なわけ?」
滋は総二郎と優紀を交互に熱い視線を送り、その脇であきらも口
元を上げ興味ありげに眺める。

「俺、優紀ちゃんと付き合うことにしたから
 類とつくしを見てさ、まぁ~一途に思うのも悪くねぇなってよ」
内心は大照れだったがそこはポーカーフェイスの総二郎だ、さら
っと優紀との関係を伝える。隣の優紀は頬を赤く染める。
「総二郎もようやく落ち着いたか。俺も嬉しいぜ!」
「お前も人のこと言えないだろ
 人妻しか愛せねえなんて言っておいて、滋とよ
 まぁ、俺らもちっとはまともになったってことか」
「本当だよ!これもつくしのおかげだね
 優紀ちゃん良かったね!おめでとう」
「ありがとう滋さん」

総二郎は交際宣言はしたものの、これ以上は話すつもりはなかっ
た。あきらは長年の付き合いだからアイコンタクトとか動作で察
するが、滋に至っては一部つくしに似た鈍感振りを発揮すること
があり空気が読めない。だから総二郎は話題をかえた。
「しっかしよ、類変わったよな。あの寝太郎が寝なくなって
 単語しか言わねぇヤツが口数は増えるはよく笑うは、あんな
 に変わるもんなんだな、人ってよ。司もそうだったけど、つ
 くしの影響っていうか存在すげーなって」

「この間、類の家に行ったらつくしに会ったぞ
 類のお袋さんと3人でフランス語でトークしてて、俺ビックリ
 したぜ。…やっぱあれか、結婚前提ってやつか?」
「〝つくしを娘みたいに可愛がってる〟って、類言ってたぜ
 類の会社ってフランスが本場だろ、だからじゃねぇのか?」
総二郎とあきらの対話に優紀は難色を示す。
「えッ?……ちょっとおかしくありません?」

「なんかおかしいことあった?」
「今考えると時期的に合いませんよ
 だって類さんと付き合う前にバイト辞めたんですから」
「ってことは、その前からフランス語の勉強してたってことだよな」
あきらの言葉に一同は頷く。
「つくし何か隠してるな」
「たぶんな」

不安げな優紀を目端に総二郎とあきらは眉を寄せ顔を見合わせる。
そんな状況の中、滋だけは目を輝かせてみんなを眺めている。
「ここ数ヶ月平和だったじゃん。久々の問題発生って感じ?」
「おい滋!なんでそんなに目ギラギラさせてんだよ、これって
 類にとって大問題かも知んねえんだぞ。類だけじゃねぇ、俺ら
 にとってもだ。あんな嬉しそうな類の姿見て、地獄に落とせる
 かよ。なぁあきら」
「ああ。……類知ってんのかな?」

「あんたたち本当に変わったね。…滋ちゃんは嬉しいよ」
「滋、泣くなよ。確かに俺ら変わったと思うぜ
 司の件が無ければきっと分からなかったと思う
 人を思いやる気持ちがさ」
「私も嬉しいです。心配してくれる仲間がいるって本当に素敵な
 ことですよね。私、つくしと話してみます」
「俺も類にそれとなく聞いてみるわ」

「話かわるけどよ、この間司とあの子、島に行ったらしいぜ」
「お前……、司の家に行ったのか?」
「おいおい総二郎、怒んなよ。大体にして俺が行くわけねえだろ
 姉ちゃんからまた電話がきたんだよ、司の様子知りたいって
 あれ以来行ってねーし、大学で会っても話しねぇし…。でも
 道明寺邸での出来事は全部話したぜ、俺たちの気持ちも。そうし
 たら姉ちゃんに、寂しそうな声で見捨てないでくれって言われた
 ……なぁ総二郎、はっきり言って良かったんだよな?」
「当たり前だろ!あきら、気にすんな!」
複雑な思いで話したあきらに総二郎は力強く言いきった。
「そうだよ、今の司に何言っても無駄だよ!」


長い夏休みも終わりF3は大学のカフェテリアにいた。
「どうしたの?二人マジな顔して。クククッ…」
「おぉ類、ここに座れよ。次の講義ないんだろ?」
「ないよ、何かあったの?」
普段の軽いのりとは違うと感じ取った類は不思議そうに総二郎と
あきらを見て椅子に座る。

「実は……、つくしの、ことなんだけどよ
 進路について、類は何か聞いてるのか?」
「聞いてるよ、留学するって」
気遣いながら聞いた総二郎に類はあっさりと答えた。
「「はあーッ!…留学!?」」
「プッ、クククッ…。総二郎とあきら、息ピッタリだね」
想像さえしていなかった類の返答に総二郎は眉間に皺を寄せる。
その斜め向かいに座っていたあきらは勢い良く立ち上がるとテーブ
ルに手を着き、類を真っ直ぐに見つめ一気に捲くし立てる。
「留学ってフランス留学の事か?なんでそうなるんだよ?
 何年行くんだよ?お袋さんは知ってんのか?
 類!お前大丈夫なのか?」
「フランス留学、本人の希望、二年、母さん知ってる
 俺大丈夫か分かんない」
類は無表情で淡々と答えた。

「お前なんでそんなに平然としているられんだよ?
 それになんで俺らに言わねえんだよ。心配したんだぜ」
少し怒った口調で言う総二郎に類はさり気なく視線を逸らす。
「つくしから聞いたのは10日ぐらい前だよ
 ここの大学に来ると思ってたから…、俺も驚いたよ
 時間が止まるくらいにね。でも留学は止められない、つくしの
 夢でもあるんだし…、いくら好きで傍にいたいと思っても
 つくしの時間を束縛することは出来ない」
つくしの思うようにさせてやりたい、笑顔で送り出したい気持ち
と、傍にいてくれ、行かないでくれ、とつくしを困らせる気持ち
が未だに交錯している。

「マジかよ。あと半年で行っちまうのか?」
「行くのは年明けだよ
 卒業式以外、帰国は考えてないって言われた」
「そうか…、つくしはそこまで考えてんのか
 帰国しねぇなら類が行けば良いことだろ。静の時みたいによ」
「そうだな。その時は俺らも便乗と行きますか!な総二郎」
総二郎とあきらはつくしの意志の固さが伝わり、時間を共有でき
ないことを寂しく思いながらも快く送り出そうと決める。

会話は終わり暫しの間それぞれが喉を潤していると、総二郎が思
い出したように手をパチンと鳴らし口端を上げてあきらを見た。
「つくしを大好きだってヤツ、もう一人いるぜ!滋がよ。つくしが
 いないとあきら、ますます振り回されるぞ。今から体力温存して
 おけよ、優紀ちゃんが巻き込まれたかなわねえからな」
「うっ!ヤッベー」
すっかり忘れていた滋の存在を思い出したあきらは頭を抱え込む。
いつもの雰囲気を取り戻し、次の講義を受けるためにF3はカフェ
を後にした。

F3の後ろ姿を少し離れた場所で凝視する人物がいた。それは海
を待っていた司だった。
司は夏休みに海と島に行って以来、つくしと類の名前、美味しそ
うに食べる表情、笑顔などが気になりよく考え事をするようにな
っていた。


| | コメント (0)

2008年8月22日 (金)

PURE ANGEL[第1章] 第9話

第9話


類の腕に力が込められ強く抱きしめられたつくしは、これから話
さなければならない事に躊躇しそうになるが意を決して口を開く。
「類、まだ話しておきたいことがあるの」


つくしは体を離し俯く類を見つめながら言葉を続ける。
「フランスには年が明けたら行こうと思っているの
 卒業式に出席するために帰国はするけど、あとは帰国を考えて
 いない。類、分かってほしい」


類は頭を抱え込んだ。

――そんなの分かんないよ、つくしとの幸せを知ってしまった今
  いまさら離れられない、……離したくない


昨日まで心底から笑い合っていた二人。
今まで味わったことのない、感じことのない、幸せに満ちた日々
がこれからもずっと続くと信じていたのに、留学の一言で全てが
音を立てて崩れていく。

「どうして…、つくし、どうしてひとりで…」
類の苦しげに発せられる声につくしは耳を塞ぎたくなる。
「あたしも類に会えないのは辛いよ。本当に心からそう思ってる
 だけど、夏休みも冬休みもカリキュラムを組んでいるの。2年
 間で帰国できるように。自分勝手だって分かっているけど…」


類は勢い良くつくしを力いっぱい抱き締める。
自分の大切な宝物を守るように、大切な宝物がなくならないよう
に切ない願いを抱いて力いっぱい抱き締める。


――分かってる、決意は固いってこと
  俺がどんなに願っても絶対に縦に振らないってことを


相談でもなく、釈明でもなく、宣告を受けている感覚だ。

「母さんは知ってるんだね」
「うん、だからフランスに行くまでここに来てほしいって
 言われたの、フランス語の勉強も兼ねてだけどね」
「来てくれるんでしょ?
 なんだったらここに一緒に暮らしてもいいけど」
頬を赤く染めて口をパクパクさせるつくしを、類は意地悪そうな
瞳で覗き込んだ。
「そ、それはダメよ!
 一緒に暮らしたら、余計に類と離れられなくなっちゃうもん
 フランスに行けなくなる、だから絶対にダメ!」


「だったら行くなよ!……俺の傍にずっといてよ」
類自身の心の奥底の言葉を素直に表現した結果だった。
いくら自分に言い聞かせても、いくら自分の心を偽っても、納得
するにはあまりにも時間が少なすぎる。


類の切ないくらいの熱い想いが伝わりつくしの目から涙が零れる。
類は苦しげな瞳でつくしの涙をそっと指で拭うと、自分の胸に引
き寄せ頭を撫でながら呟く。
「絶対に泣かせない、傷つけたりしないって言ったのに…
 ごめん、…つくしごめん」
「類、違うの!これは嬉し涙なの。だから、……だから違うの」


つくしの目じりに唇を寄せて純真な涙を吸い取る。右側、左側と
唇を移動させて何度も涙を吸い取る。
吸い取る涙がなくなると、類の唇は耳たぶに移動する。


つくしに想いを寄せた時から類の中で葛藤が始まった。
理性との闘い――


「今日は俺を一人にしないで」
「……ぇっ?」
「朝まで俺といてほしい
 心と身体、つくしのすべてがほしい。…俺のすべてをあげるから」


類は熱い眼差しでつくしの顔をいとおしむように見つめた後、唇を
重ねる。強張った身体を解すかのように触れるだけのキスを何度と
なく繰り返し、そっとベッドに横たえる。


「つくし、そんなに緊張しないで、イヤなことはしないから」
真っ赤になったつくしの頬に手を添え、類は再び唇を落とす。
今までの想い、今の想い、これからも変わらないであろう自分の
想いを唇に託し、つくしの唇に伝えるように注ぎ込む。
優しく何度も、そして深く激しく舌を吸い口内を愛撫する。
「んんっ…」


つくしは初めて体験する大人のキスに全神経が集中して、お互い
が全裸であることに気付いたのは、唇が耳たぶから鎖骨へ、冷た
い手が胸に移動した時だった。
「あぁ…、るぃ」
つくしは羞恥心から胸元を両腕でクロスする。


「つくし、何も恥かしがることはないよ、前にも見てるし」
過去に一度だけ全裸を見られたことがあった。滋の別荘でのぼせ
て類に救助された時だ。あの時は羞恥するどころか自分の意識は
なかった。でも今は違う。
幼児体型とコンプレックスを抱くつくしにとって、大好きな人に
熱い眼差しで見られる羞恥は計り知れない。その一方で、その幼
児体型さえも愛しく思う類がいる。


「俺はつくしだから好きになったの
 つくしは俺の容姿を好きになったの?」
つくしは頭を横に振った。
「だったら、俺にすべてを預けて」
〝愛してる〟と囁き、つくしを安心させるようにキスを繰り返し、
小さめだが形のよい胸を愛撫する。柔肌に唇を落とし想いを刻む
ように痕跡を残していく。
「あっ…、んん…」
手で胸を愛撫して、先端を口に含み濡れた舌で転がし吸い上げる。
それを繰り返すと頂は固くつんと尖り熱をおびてくる。


「ああっ…、んあっ…」
自然と漏れる喘ぎ声に驚きと羞恥で両手で口元を押さえ込むつく
しに、類はその両手を自分の肩に乗せた。
「つくし、もっと自分を解放して、感じるまま受け止めて」


素直に悦びを表すつくしが愛しくてたまらない。普段のつくしから
は想像もできない、甘い吐息を、恍惚する表情をもっと見たくて、
壊れ物を扱うように柔肌をなぞり骨盤から腿の付け根へと下降させ
ていく。
「あっ、るい…」
つくしは恥毛を撫でクレパスを軽く撫でる類の手を阻止した。


「イヤ?」
類は一旦行為を止めてつくしを見つめる。
「いや、じゃなけど…、類の手が汚れちゃう」
自分で触れなくても分かる。そこは蜜で溢れ類を待っていることを。
自分の意思とは関係なしに身体は類を受け入れる準備ができている
ことに羞恥と戸惑いを覚える。


曖昧な否定の返答に類はつくしの手を取り、自分のそそり立つ固い
モノに触れさせる。
「あっ」
「好きな人に触れたり触れられたりしたら、自然なことでしょ
 戸惑うのも無理ないけど、感じるまま素直に受け止めて」
類に見透かされたように欲しい言葉をもらい、素直に頷く。
それを認めた類はご褒美につくしの唇と頬にキスをし、動きを止め
ていた指を再び動かす。
「ああぁ…ふんっ…、ああはん…」
喘ぎ声は甘さを増し、足や腰が落ち着かない。
変化に気付いた類はつくしの両足の間に身体を割り入れ、クレパス
を舌先で舐める。
「いやあっ…、あんっ…、んふっ…」


クレパスを上下に何度も舐め、唾液と蜜が混ざり合った舌で花芽
の輪郭をなぞる。舌先で突いてみたり軽く吸ってみたりと丹念に
愛撫すると、やがて花芽は固く尖らせひくひく震えだす。
「ああっん…、んあぁっ…」
善がるつくしをちらりと見た後、溢れ出た蜜を絡ませた指を秘部
にゆっくりと差し入れる。一度も異物の進入を許したことがない
秘部は、すらりと長い指でさえ拒むように押し出そうとする。


「ああん…、ああっ…」
もっともっと甘く切ない吐息を聞きたくて、拍車をかけるように
指を増やし深く出し入れすると同時に花芽を口に含み舌で攻める。
「ああっん…、んああっ、るぃ…、ああっ」
一際大きな喘ぎ声と肢体が激しく震える。
つくしが高みに昇り詰めたことを確認した類はおでこと頬にキスを
落とし、固くそそり立つ自分のモノを秘部に労わるように少しずつ
侵入させていく。


「大丈夫?」
少し顔を強張らせているものの、瞳は恍惚としていて先程の余韻が
まだ残っているようだ。その瞳を見つめながら腰を浅く何度か突き
ながら徐々に深さを増していく。
「うっ…」
今まで感じたことがない焼けるような痛みに苦痛な表情を浮かべ、
類の二の腕をぎゅっと握り締める。類は腰を動かすを止めた。


「つくし…、無理だったら止めてもいいよ」
女性にとって初めての行為は苦痛で地獄のようなもの。それに対し
て男性はこの上ない快楽で天国だ。
今の状況で欲求を満たせないまま止める行為は身体的に辛いが、つ
くしの苦痛を思えば精神的に辛い。


「だ、大丈夫だから、このまま続けて」
自分を全て受け入れてくれる、痛みに耐えようとするつくしが愛し
くてたまらない。
目尻から落ちそうになる涙を唇で吸い取ると、再び腰を浅く動かす。
つくしの様子を窺いながら徐々に腰を深く突き速度を上げる。


「ああっ…んああ…」
痛みの中に快感を覚え、恍惚とした表情で類を見上げる。
「もっと感じて、もっともっと俺を感じて」
可愛い喘ぎ声に煽られた類は両足を自分の肩に乗せ、子宮を突
き上げる勢いで深く律動を繰り返し、荒い息混じりに〝愛してる〟
と囁く。
「んああっん…、あたしも…愛してる
 ああっ、んああはん…、るぃ、もう…ああーーっ」
昇りつめていく秘部は一段と締め付けが強く、類にも限界が近
づく。深く激しく律動を繰り返し限界を迎える。


類はつくしの寝顔を見つめながら幸せな余韻に浸る。
愛する人を抱く悦び、愛する人の初めてが自分であることの悦び
自分がつくしにとって最初で最後の男であってほしいと、眠りに
就く。

| | コメント (0)

PURE ANGEL[第1章] 第8話

第8話

数週間後

葵に呼ばれたつくしは花沢邸の客間にいた。

「つくしさんの留学の件で、私も協力したいと思いまして
 留学の件、類くんにはお話したのかしら?」
「いいえ、まだ話していません
 この間、進路について類さんから聞かれたのですが
 なんて言えば良いのか分からなくて、言えなかったんです」


「類くん、気にしているのね。2年間フランスに留学することは
 きちんと伝えなくではいけないわね。但し、パリに留学と言っ
 てはダメよ。あの子のことですもの、きっとつくしさんを追っ
 て類くんも留学のことを考えると思うの。少なくともつくしさ
 んに会いに行くでしょうから」
「留学を終えるまで誰にも会えない約束ですから
 これが難しいんですよね」
「そうね、困ったわね
 つくしさん、紅茶でも飲みながらゆっくり考えましょ」


今これだけ幸せな類の姿を見ているとこの先どうなるのか、心
が保てるのか、2年間つくしに会えない類の心境を考えると葵
はとても不安だった。

「類さんに話してみます、類さんがなんて言うか分かりませんが
 それにまだ4ヶ月先のことですから」
「何かありましたら遠慮なさらずに言ってくださいね
 大切なつくしさんと類くんのことですから。つくしさん
 パリに行くまでの間、ここに遊びに来て頂けないかしら?」
「……えっ?ここにですか?」


「今まで類くんとお話しすることなんてなかったのよ。お互い
 どのように接したら良いのか、分からなかったんだと思うの
 つくしさんに出会って、あの子大きくかわったわ」
「………。」


「主人はパリでお仕事なさっていますので、あまりこちらに来る
 ことがないの。類くんはお部屋から出て来ませんし、わたくし
 の話相手になってもらいたいの、ダメかしら?」
「……私が、ですか?」
「そう。つくしさんはフランス語のお勉強なさっているでしょ?
 わたくしも類くんも、フランス語、得意なのよ」
茶目っ気たっぷりに言うと類のように柔らかな微笑みを見せる。


――ここに来てフランス語の勉強?話し相手って…、お母さんと
  嫌いじゃないんだよねェ…ってゆうか、その笑顔反則だって

欲しい返事が返ってこないことに葵は悲しそうに瞳を滲ませる。
「つくしさんの都合の良い時で宜しいですから、どうかしら?」


――うっ!この眼差し…、類と同じビ-玉みたいな瞳


「わ、わかりました」
「本当に?…嬉しいわ!類くんもきっと喜ぶわよ」
悲しむ表情から一変、喜びを身体全体で表現するかのようなはし
ゃぎぶりを見て、つくしも嬉しくなり自然と笑顔になる。
その後、つくしは類と幼い頃に出会っていたことやパリでの話を
聞かされ、興奮気味に胸を躍らせ葵の話を熱心に耳を傾けた。
葵との楽しいひと時を過ごしたつくしは、すぐ近くに類がいたこ
とも知らずに客間を出た。


呆然と立っている類が視界に入った途端、つくしの目は大きく見開
きフリーズする。
「る…、る、ぃ」
つくしの口は思うように動かない。


「……プッ!クククッ…。化け物でも見た顔だね」
帰宅した類は自室に向かおうと廊下を歩いていると、突然少女
が客間から出て来る姿に足を止めた。まさかその少女がつくし
だとは思わずに見ていた類も驚きは隠せない。だがつくしの驚
いた顔があまりにも可笑しくてつい噴出してしまった。


「つくし珍しい所にいるね。どうしたの?」
「類のお母さんと話してたの
 終わったから帰ろうと思って、そしたら類が…」
類は母親を信用してないわけではないが、自分の知らないところ
で二人きりで会っていたことに、難色を示す。
「母さんと?何か言われたのか?」
類は不機嫌そうに言うと視線の定まらないつくしの顔を凝視する。


「いや、その…、別に言われてないけど…
 言わなきゃいけない…、その…、まだあたし…」
しどろもどろのつくしはどう見ても不審で、何かがあったとしか
思えない。類はつくしの腕を掴むと急ぎ足で自分の部屋に連れて
行きベッドに座らせた。


「つくし待ってて、俺母さんと話してくるから」
部屋を出て行こうとする類につくしは慌てて声を掛ける。
「類!ちょ、ちょっと待って!違うの」
「何が違うの?」
類はつくしの隣に座ると心配そうな瞳を向け顔を覗き込む。


「あの…、お母さんが遊びに来てほしいって
 話し相手になってほしいってあたしが留学するまで」
一気に捲くし立てるように言った後、つくしはハッと我に返り
両手で口元を覆う。恐る恐る隣に視線を向けると、目を大きく
見開き呆然とする類の姿があった。


――ど、どうしよう、こんなはずじゃなかったのに…
  きちんと類に話すはずだったのに…


話すタイミングは、切り出し方は、会えない理由は、つくしの中
で何一つ決まっていなかったことと、突然類に会ったことに動揺
して口走った結果、類を不安にさせた。


「類…」
きちんと説明しようと決意して沈黙を破るように口を開いたが、
その言葉を遮るかのように類が口を挟んだ。
「つくしが留学するってこと?」
「…う、うん」
たった今決意したばかりなのに、類の悲しそうな顔を見たら返事
をするのがやっとだった。


「なんで…、母さんが言ったの?」
「ううん」
「どうして…、どうして英徳大学じゃないの?どうして…」
英徳大学に進むと思っていた類は納得が出来ず当惑する。


「聞いて類、お母さんは関係ないの、留学はあたしの夢でもあるの
 あたしを2年間フランスに行かせて。類、お願い」
つくしの瞳は力強く希望に溢れている。
その瞳に何度も惹かれ、勇気付けられ、羨ましくも思った。
それなのに今はその瞳が残酷に見える。


「もう、決めたんだね」
苦悩する類を見るのが辛い。
そんな顔をさせたのは自分だと、謝罪の文字が頭の中を駆け巡る。
「類、ごめん」


つくしを胸に引き寄せ、類は切なげな顔を埋めて想いを伝える。
「つくしと離れるのはイヤだ。俺、耐えられない」
やっとの思いで心が一つになり、誰にも気兼ねなく想いを伝える
ことも、手を繋ぐことも、抱きしめることも、同じ景色を過ごすこ
ともできる幸せを知った類にとって、つくしのいない時間を過ごす
なんて想像すらできない。


まだこの時の類は知らなかった。
悲しみや寂しさが今以上に待っていることを――


| | コメント (0)

PURE ANGEL[第1章] 第7話


第7話

お屋敷を訪れてから3ヶ月、つくしと進の生活は大きく変化した。

進はパリに旅立ち2ヶ月が過ぎた。
気の合う友達ができ、言葉以外は何不自由なく生活を送っている。
性格上、順応しやすいのかも。

つくしは一人暮らしになった。
仏語を勉強するため、団子屋のアルバイトを辞めた。
類と交際して2ヶ月、もちろん泣くことはなかった。
他のメンバ-とお酒を飲んだりバカ騒ぎをしたりと、サ-クル的に
楽しみ友好関係を深めていた。

仲間内で唯一つ違ったことと言えば、誰一人苗字で呼び合うことが
なくなった。

そんなある日、二人は休日のデートを楽しんでいた。

類は自分のお気に入りがあると執着するらしく、なかなかそこから
動こうとしない。一方のつくしは見たことのない珍しい植物ばかり
に、つい夢中になり周囲の流れより先へ先へと進む。
お互い対照的な行動で逸れる。


「ああ、良かったぁ~」
つくしは類の顔を見て安堵の溜息を漏らす。
「つくし、どうしたの?」
「気がついたら、……類がいないんだもん」
不安げに言うつくしを見て類は何かを感じ取り笑い出す。
「プッ、クククッ…。もしかして、……俺、迷子?」
「だって…」
「アナウンスされて、俺ビックリした」
「ごめん」
申し訳なさそうに顔の前で手を合わせるつくしに類は柔らかな笑
みで返す。


「それで、つくしは全部観たの?」
「うん!類は、まだだよね?」
「俺半分も観てないよ」
「えっ?半分って…」
「説明書きあったろ?あれ読んでたらおかしくてさぁ~
 つくしに似た花いっぱいあったから、俺、夢中になってた」


『それってどうゆう意味?あたしの顔見て、こんな動物したよな
 って前に…。あたしに似た花って…、いったいどんな花よ?』


「クククッ…、何ブツブツ言っての?
 全部見られなかったお詫びに
 これから俺に付き合ってもらうから。いいでしょ?」
「…あ、うん」


こうして植物公園でのデ-トは幕を下ろし、花沢家の車に乗り込
む。何処に行くとも知らされぬまま、つくしは早くも夢の世界へ。


「つくし起きて、……つくし着いたよ」
声を掛け肩を揺らすこと十数回、やっとの思いでつくしを起こし
た類は疲労感を思わせる深い溜息をつくと車から降りた。


「あれ?ここって」
「俺んち」
「ええーっ、なんで?」
「今から母さんに会ってもらうから
 お詫びに俺に付き合うって言ったよね?」


意地悪そうな瞳を向けると類は手を差し出しつくしの手を繋ぐ。
つくしが迷子にならないように、不安にならないように、逃げ出
さないようにと、類の様々な意味合いを込めて繋いだ手。


つくしに微笑む類を見て、ここで働く誰もが驚きの表情を見せる
が、直ぐに笑顔を取り戻し微笑ましい二人の姿に暫し見入る。

客室に座るつくしは緊張と不安で頭中は混乱する。なんと言っ
ても司の母親のイメージがあるだけに冷静ではいられない。
少しでも不安を取り除こうと類に問い掛ける。
「どうしてお母さんが…」
「好きな子がいて、今その子と付き合ってるって母さんに
 言ったんだ。そうしたら一度会いたいって」
「……えっ?それって…、ヤバい…」
「大丈夫だから、そんなに緊張しないで
 司の時みたいにならないように、前もって母さんにつくしの
 こと言っておいたんだよ。…了解取っておいたってこと」
「じゃあ…」
「心配することないよ、母さんも喜んでるみたいだし」


心底から笑顔を見せる類を見てつくしの不安は減少したものの、
慣れない場所と未知なる母親にそうそう簡単に緊張は解けそうに
ない。が、類と付き合う以上、避けては通れない道と腹を括る。

少しして貴賓に満ちた着物姿の女性が入って来た。
「お待たせしてごめんなさい。類の母で花沢葵と申します」
「はじめまして、牧野つくしと申します」
深々と下げた頭を上げたつくしは、まともに見れなかった葵の顔
を見つめる。


――ぅわぁーずごーい綺麗
  どうしてお金持ちってみんな綺麗な人ばっかりなんだろう
  類はお母さんに似たんだ、まるでハンコだよね

葵の美しさと類に似た顔立ちがつくしの緊張を解かした。

「つくしさん、今日は類くんとデートだったんでしょ?
 類くんあまりお話しないから、退屈な思いしなかったかしら?」
デ-トのセリフに二人の頬が少し赤く染まる、そんな純粋な二人
を葵は微笑んで眺める。
「い、いいえ、大丈夫です」


「それは良かったわ。つくしさんは
 類くんの幼い頃のお話しを聞いたことがあるかしら?」
類を気遣うようにちらりと視線を送りながら言う葵に気付く。


「母さん、つくしに話したから。だから何言ってもいいよ」
「はい、類さんから聞いています」


「私たちが類くんを厳しく育て過ぎて、心の病気をつくってし
 まったの。この病気を治すには、周りにいる人たちに自分か
 ら心を開かない限り無理なことなの。静さんや司さん達と接し
 て少しは良くなったけれど、それでも自分から表に出すことは
 なかった。でも時が経つにつれ類くんの様子がどんどん変わっ
 てきたのよ。笑ってみたり、怒ってみたり、時には心配そうな
 顔をしてみたりと…。私たちを驚かせることばかりだったわ
 つくしさんとお付き合いすることになって、あんなに嬉しそう
 な顔を見せたのは初めてだったのよ。つくしさんのこと
 大切に想っているのね」


「私はいつも類さんに頼ってばかりです
 何もしてあげられないかも知れませんが
 この先もずっとお付き合いして行きたいと思っています」
力強くはっきりと言ったつくしに類は目を丸くする。


心は同じ。この先もずっと――


「つくし、俺もずって付き合って行きたいと思ってるし
 それに付き合いだけで終わらせようとは思ってないから」
真っ直ぐに見つめられはっきりと言った類に今度はつくしが目
を丸くした。


二人の想いを確認した葵は心から笑顔になる。
「つくしさん、これからも類くんのことお願いね」


3人はアッサムティ-を飲みながらデートの出来事を話す。
つくしお得意の百面相で葵と類は大笑いし、部屋は活気に溢れ温
かな空気が流れる。その温かな空気は使用人にも流れ笑顔を齎した。

| | コメント (0)

2008年8月20日 (水)

PURE ANGEL[第1章] 第6話


第6話


人生で何よりも大切なこと
それは現実を受け入れること
現実から目を逸らさず認めること
〝さよなら〟ほど寂しい言葉はない

「あたしは道明寺と出会ってここにいる人達と出会えた。友達
 とか親友とか大切なものを貰った。けど……、あたしは道明
 寺に苦しみや悲しみしか与えなかったのかもしれない
 海ちゃんが言ったように重荷だったのかも…。今まで
 負担かけて、ごめんなさい。……そして、今までありがとう」


つくしは真っ直ぐ司を見つめ冷静な態度で淡々と言うと、最後
に感謝の気持ちを込めて満面の笑顔を向けて静かに部屋を出て
行った。

「司、いいのかよ?」
険相の面持ちで総二郎が詰め寄る。
「何がだよ?」
「牧野に辛い思いさせていいのかって言ってんだよッ!」
何も感じない司に総二郎の怒りは込み上げ拳に力が入る。
「フン、あいつがどうなろうが俺には関係ねえな
 海がいればそれでいいしよ」

類の透き通るビ-玉みたいな瞳が悲しみで曇り顔を歪める。

つくしのためなら何もかも捨てても構わない、つくしさえ傍に
いればいい。あんなに大切にしていたつくしに司が言った言葉
が信じられなかった。

「司、最後はこれかよ。俺がどんな想いであいつを譲ったか
 どんな想いであいつを諦めたか、……司、お前に判るか!?」
そう言って類は硬く握り締めた拳を司目掛け解き放った。

司はよろめき壁に背をぶつけ、殴られた頬に手を当て呆然とする。
また、他の友人等もその光景に呆然と立ち尽くす。

「どんなに辛くても、どんなに悲しくても、あいつが牧野が
 お前を好きだって言うから、俺は諦めようとしたんだ。お前
 のことを想って泣くあいつの気持ち、考えたことあるのか?
 どんなに好きでもただ見守ることしかできいこの想いを…
 この苦しみを、……お前に分かるか?」

「………。」

「司、記憶が戻っても文句言うなよ
 俺は絶対にあいつを、牧野を泣かせたりしない」
真意を伝えると類は足早に部屋を出て行った。


怒りを露にした類の姿を目の当たりにした友人等は放心状態だ
った。心の中ではそれぞれ同様なことを考えていたことだろう
類は本気だと。


しばらくの間、誰もが口を閉ざし部屋は静寂に包まれた。
そんな中、あきらはどうしても気になっていることがあって司
に近づいた。


「司〝俺たちがいなくても寂しくねえ〟って言ったよな?
 これってどうゆう意味だよ?」
「そのまんまだよ」

平然と即答する司に今度は総二郎が呆れ顔で問う。
「もう関係ねえってことなのか?」
「だったらどうする?」
「ガキの頃からずっと一緒だったのによ、その女に負けたって
 ことか、せいぜいお子ちゃまごっこでも楽しむんだな」
怒りは限界を超えていたが総二郎は敢えてからかった。

そんな総二郎の胸の内を知ってか知らずか、司は薄笑いを浮か
べ挑発する。
「プッ!ひとりの女も愛せねえくせして」
「牧野を傷つけておいてよくゆうぜ
 司だけには言われたくねえんだよッ!」
総二郎は語尾を強く言うのと同時に今まで抑えていた怒りを解き
放つように司の頬に拳を振りかざした。

司はメンバ-と四面楚歌となり、この日を境に道明寺邸を訪れる
友人はいなくなる
他のメンバ-は今まで以上に深い信頼関係を築いてゆく

類は一足先に道明寺邸を出て行ったつくしが気がかりで、足早に
アパートに向かう。
類は部屋に入ると暫く俯いたまま何も言わない。その姿はまるで
迷子の幼子のようにつくしの目に映る。

「花沢類」
「………。」
「どうしたの?もしかして心配して来てくれたの?」
「牧野がどこかで泣いてるんじゃなかって、……心配だった」
「花沢類は優しいね、でも大丈夫だよ
 なんか花沢類の方が泣きそうな顔してる」
いつもと変わらない口調で話すつくし。
辛い出来事があった後なのに、どうしてこんなに普通にしていら
れるのかつくし自身も驚いていた、自分の強さに。


「こんなに切ないと思ったことはなかった
 なんであんなに残酷になれるのかって…」
顔を歪め苦しそうに呟く類の顔を見るのは初めてのことで、つ
くしは戸惑いを覚え愁眉な面持ちを類に見せまいとさり気なく
顔を背ける。
「そうだね
 きっと、恐怖なんじゃないの?人の心に触れることに…」


「……牧野、司はいいの?」
「…うん」
笑みを見せ軽く頭を縦に振るつくしに類は確認するかのようにも
う一度聴く。
「本当に?」
「たぶん、同情だったと思う。もう見えない夢を追うのは辞めよ
 うって、今日はケジメをつけるために道明寺の家に行ったの
 だから少しは冷静でいられたんだと思う
 フフフッ…、海ちゃんには参ったけどね、でも大丈夫」


「牧野、……俺を男として見てほしい」
類は意を決して今まで抑えていた想いを解き放った。
このことで二人の関係がどうなってしまうのか不安はあったが、
言葉にしなければ何も始まらない。いくら心に秘めていようが
その想いが相手に伝わらなければ、何もなかったことになって
しまう。


急に真剣な眼差しを向けられ、つくしは戸惑いと鼓動の乱れを感
じる。この鼓動は正直だ。
「……えっ?」
「ゆっくりでいいから、ニューヨークで好きだって言ったろ
 今もその気持ちには変わりないから」
真顔から優しく微笑む類と変わり、つくしは再度の告白と大好
きな笑顔に慙愧する。

「顔真っ赤!もしかして嬉しいとか?つくしちゃん」
「う、うれしいわよ、あたしも花沢類が好きだから」
類は自分の照れ隠しのつもりでいつものようにからかったのだ
が、思ってもいない突然のつくしの告白に、目を見開き一瞬体
が硬直する。頭の中でつくしの言葉を思い返すと、嬉しさのあ
まり自分の胸につくしを引き寄せ抱きしめた。

心底から歓びを噛み締めると、つくしの耳元で囁く。
「ずっと牧野の気持ちが欲しかった」

体を離しつくしを愛おしそうに見つめた後、唇を重ねる。
あの浜辺での切ないキスとは違い、お互いの想いが通じ合った甘
いキス。すれ違いの想い、交わることのない諦めていた想いが今
一つの線となり結び合う。


「今まで素直でなかったために、周りの人たちにたくさんの迷惑
 をかけてきたから、これからは素直に正直になろうって
 あたしね、気がつくといつも非常階段に行ってた
 花沢類の顔を見るだけで嬉しくて元気になるの、あなたといる
 と安心するの。でも、ドキドキする自分がいて…
 ひとりの男性として意識していたんだと思う」

初めて聞くつくしの真意を〝嬉しい〟の一言では表現できないほど
類の心に響く。再び自分の胸につくしを引き寄せて幸せの温もりを
リアルに感じる。

「俺は静がいたから気付かなかったけど、たぶん、最初から意識し
 てたんだと思う。あんたの喜怒哀楽に圧倒され、毎日が楽しくて
 人生捨てたもんじゃないなと思った。でも、司と付き合うように
 なって、あんたの笑顔を向ける先が、なんで俺じゃないのかって
 ……苦しかった。
 記憶のない司を怒っても仕方がないと分かっていても、許せない
 んだ。俺のたったひとつの大切なものを壊そうとしたから…」


類はつくしを胸から離し正面に座らせる。
「牧野、俺のためだけに笑ってほしい」
この言葉を何度言いたかったことか、そして何度この言葉を振り払
ったことか。
真剣な眼差しで言ったこの言葉には類の想いの重さがあった。
「うん!」
類の気持ちに応えるかのようにつくしは満面の笑顔を向けた。

「クククッ…、付き合うってことだよ」
「……あたしでいいの?」
「牧野でなきゃダメなんだ!
 輝く瞳で、俺だけを映して、俺のすべてを」
「うん!あたしも花沢類がいい」

類とつくしは新たな関係がスタ-トした
つくしの留学まであと数ヶ月
このことは一部の人間しか知らない
その中に類は含まれていない
その時、お互いは――

| | コメント (0)

PURE ANGEL[第1章」 第5話


第5話

マダム御用達のナイトクラブでカクテルを傾けながら会話する総
二郎とあきらがいた。

「司が勝手に退院して女の子と遊び歩いてるってよ。部屋は
 違うらしいが泊まってるらしい、しかも俺の女だってタマさん
 に言ったらしいぜ。昨日、姉ちゃんから電話がきたんだよ」
「はあ?退院?…その女って…、海ちゃんか?」

突然のあきらの言葉に総二郎は口に含んでいたカクテルを噴出し
そうになる。あの司がまさかそこまで海に入れ込んでいるとは誰
も思っていなかったことだけに、驚きも一入である。


「たぶんな、牧野と上手くいってると思っていた姉ちゃん達は
 ビックリしたらしいぜ」

「そりゃぁそうだろう、俺でさえビックリしたもんな
 姉ちゃんやタマさんは牧野お気に入りだからな。あの司がなぁ
 家に置くぐらい愛が深まったってことか?
 司のヤツすっかり骨抜きにされちまって…」

「なぁ総二郎、1週間くらい前に司が言ったこと覚えているか?
 〝お前らがいなくても別に寂しくねぇ〟って
 あれって関係ねぇってことなのか?」

「わかんねぇ」

「〝ガキの頃から13年間一緒だった司を裏切れない〟
 って類が言ったけどよ、今の司見たら、類どう思うだろうな」

心配性のあきらは類の心情を察する。その一方で司の真意が掴め
ず一人思い悩む。

「類も複雑だよな、牧野はもっとだろうが
 しっかしよ、あの海ちゃんにはやられたよな!」

「退院祝い、司の家でやろうぜ。少しは状況が判るだろ」

「あきら、それって…、俺が仕切るってことか?」

「ビンゴ!総二郎以外誰がいるんだよ。滋や桜子じゃな
 司が何を考えてんのか酒でも飲んでじっくり聴こうぜ
 姉ちゃんにも頼まれてっからさ」

「牧野は?」

「取りあえず牧野も呼ぼうぜ」

「じゃあ、全員集合といきますか」

退院祝いの日、道明寺邸に集合したF3とT4はそれぞれに複雑な
思いを胸に、主役である司の登場を待っていた。
部屋に通されて15分が過ぎた頃、手を繋ぐ司と海が入って来る
その様子に誰もが唖然としていると、満面の笑顔を向け先頭を切
って海が口を開いた。

「みんな来てくれたんだ」

海の声にいち早く現実に戻ったあきらが司に声を掛ける。

「司、勝手に退院して大丈夫なのか?姉ちゃん心配してたぞ」

「あぁ元気だっつうの。1週間位で騒ぎやがって、ったく…」

「退院したって聞いてビックリしたんだよ」

滋も心配そうに司を見上げた。

あきらと滋と総二郎は海を追い払うかのように司を囲み、他愛も
ない会話をする。司の隣というポジションを奪われた海は、満面
の笑顔を向けてつくしに近づいた。

「つくしちゃん、久ぶりだね」

つくしも笑顔で返す。


傍に海がいないことに気付いた司は辺りを見渡した。海を確認し
てホッとしたのもつかぬ間、見たくない会いたくない人物がいた
ことに苛立ち険相な面持ちでその人物を睨む。

「めでてぇ日になんでお前のツラ見なきゃなんねえんだッ!」

「つくしちゃんの彼って司でしょ?実は直ぐにわかったんだけど
 言えなかった、好きになっちゃったから
 簡単につくしちゃんのこと忘れるくらいなんだから
 司の気持ちってそれだけだったんじゃないの?」


先程まで笑顔を絶やさなかった海が司の一言で態度を変え、敵意
をむき出しにする。

つくしを囲むように立つ友人らは海を無表情で凝視する。心内で
は海への怒りとつくしへの労わりが交錯する。


周りの視線など気にせず海は言葉を続けた。

「本当に大切だったら、つくしちゃんのこと忘れないだろうし
 司だってこんな言い方しないと思うよ
 いい加減、解放してあげたら?司は重荷だったんたよ」

――重荷?…やっぱりそうなんだよね、ずっと考えてたよ
  どうしてあたしのことだけ忘れたのか、その答えは分から
  ないけど、重荷も入ってるんだよね
  ……海ちゃんはいつから司って呼ぶようになったの?

つくしはどんなことになっても笑顔で司に別れを言おうと決心
して来たのに、海の言葉にショックを受ける。
大きな漆黒の瞳がどんどん曇り深い悲しみへと変えていく。


突然パシッ!と乾いたような音がする。
海の態度に激怒した桜子が海の頬を叩いたのだった。


「あんたに何が分かるのよ!先輩のこと何も知らないくせに
 勝手なこと言わないでよッ!!」

涙をいっぱい溜めて言い放った桜子の体は少し震えていた。

海は叩かれた頬に手を添えて悲しそうな表情で司の腕を取る。
司はそんな海に大丈夫か?と優しく声をかけ頭を撫でてやり、つ
くしには険相な表情を向ける。

「てめぇが来るからこんなことになるんだろッ!
 てめぇのツラ見てると気分わりぃ、存在事態気にくわねえ
 金持ちだと思ってみんなを利用するんじゃねえよ!
 フン!最低の人間が、これだからビンボ-人はうぜぇんだよ」


司の冷酷な目はつくしを捕らえ睨みつける。
どこまでも、どこまでも悶絶しそうなくらい牙を向ける。

「司!いい加減にしてよ!つくしがそんな子じゃないって
 司が一番判ってるんだよ
 少しぐらい思い出したんじゃないの?司ッ!」

――どうしてそんなこというの?司あんまりだよ
  司も大切だけどつくしはもっともっと大切なの
  これ以上悲しませることはやめて


滋も辛かった。
桜子と同様に他の誰でもない、つくしだから諦めた辛い選択が
無になる。そして何よりも司の記憶障害を起こす引き金の原因
が自分自身にあり、大切なつくしを傷つけてしまったという重
責を感じずにはいられない。

「知らねえって言ってんだろッ!」


重い空気が部屋中に広がり罵声の飛ばし合い、論争となった。

| | コメント (0)

PURE ANGEL[第1章] 第4話

第4話


つくしの目の前に一台のリムジンが止まり、運転手に促され
るように乗って搭乗者に驚く。そこにはママと進の姿があっ
たからだ。


「つくし、今からある人に会ってほしいの
 つくしと進の進路や将来について色々と話し合ってほしいから」

車が発進して直ぐにママの口が開き、つくしは状況が飲み込めず
パカッと口を開けたまま進とママの顔を交互に見つめる。


「そういえば道明寺さんとはどうなっているの?
 お付き合いしているの?」
「……道明寺とは付き合ってないよ。別に彼女いるみたいだし…」
「あら・・そう」


「姉ちゃん、花沢さんはどうなの?」
「花沢類は……、気になるってゆうか…
 傍にいてほしいってゆうか…、別に付き合ってないから」

類の笑顔を思い出しながら言うつくしの顔は思いっきり慙愧してい
て、ママと進はニタッと笑うとつくしの真意を突く。
「つくしは花沢さんのこと好きなのね」


司や類のこと、家計のこと、これから会う人について話に夢中とな
り、ふと外に視線を向けると車は大きな門を潜ろうとしていた。
エントラスへと進み、長いアプロ-チが続く。

広大な洋風庭には幾つもの薔薇のア-チがあり、オアシスと多彩な
花々は誇らしげ咲き、レンガの外壁の洋館はずしっと重みを感じさ
せる建物の全貌が見える。

ママの話では、これから会う人は一年のほとんどをパリで過ごすた
め、日本には数えるほどしか来ないという。


――ここがそうなの
  F4や滋さんたちみたいな生活してたってこと?
  幼い頃パリに行ったことあるって…、信じられない


F4と知り合って上流階級の生活レベルや習慣に驚きの連続で、全て
において別世界に思えた。

一般家庭以下の生活を送ってきた今までの状況を考慮すれば、ママ
の話は到底現実味に欠ける。大きな屋敷を目の前にしてもリアルに
感じない。

「しっかり話、聴いてくるのよ!あんた達の人生なんだから!」

リムジンの窓から大声で張り上げたママは外に出ようとせず、つく
しと進を残して帰って行った。
「マ、ママ…。うっそ…、あたし達だけで…」


つくしと進は取り残された不安と極度の緊張を抱えたまま玄関へと
入る。
「お待ちしておりました。つくし様、進様」
使用人たちは笑顔で二人を出迎えた。


長い廊下、壁やテーブルには幾つもの絵や調度品が飾られ、所々に
綺麗にラッピングされた胡蝶蘭、カトレア、シンビジュ-ムといっ
た蘭の花が微笑むように咲き、つくしと進を出迎える。

二人は広い客間に通されソファに座った。
少し手を震わせながら紅茶に口をつけ、辺りを見渡すように煩いほ
ど瞳を動かす。
そこに貴賓のある年配の男女が入室し、つくしと進の緊張は高まり
二人は同時に立ち上がった。

「お待たせしてごめんなさいね
 そんなに緊張せずに、どうぞお掛けになって」
「はじめまして、牧野つくしと申します」
「はじめまして、弟の進と申します」
二人は顔を強張らせながら挨拶をすると、頭を深々と下げる。

年配の男性が二人に座るよう促すと早々に話しを切り出した。
「今日来て頂いたのは君達の将来について考えてほしいから
 その為に私たちに出来る事があれば協力させて頂きたい
 導いてやりたいと思ってのことなんだ」
「「………?」」

あまりの緊張に二人は声も出せない状態に、老夫婦は温容な面持ちで見つめる。


「つくしさん、進くん、そんなに緊張せずに
 何も取って食おうなんて思っていないんだから。ハハハァ…」

「つくしさん、そろそろ進路を決めなくてはいけない時期になっ
 てきましたでしょ?
 何かご自分の考えていることおありかしら?」

「今の家の事情ですと…
 英徳大学に進むのは厳しくて…、国立大学か短大だと…
 留学でもできればいいなぁと思っているのですが…」

「留学?それでしたら2年間パリでお勉強はどうかしら?
 フランスは4月と9月に始まるのよ。卒業期にちょうど良いわね」

「えっ?……でも…」

「道明寺さんのお話しも耳に入ってきてますの
 この機会に変身してみたらどうかしら?」

「……変身?」

「そう変身。道明寺さんや花沢さんたち、きっと驚くわよ」

楽しそうに言葉を進めていく婦人から変身の言葉でも驚きだったが
類の名を聞き更に驚く。

「どうして花沢類をご存知なんですか?」

「貴方方のことですもの。それとお仕事をしていますと何かと
 お付き合いも広くなってきますのよ。幼い頃の類君にはお会い
 したことがありますけど、とても可愛くって綺麗なお子さんで
 したわ。今はきっと素敵な男性になられていることでしょうね
 あぁ~楽しみだわ」

「姉ちゃん、顔真っ赤だよ」

極度の緊張は類の話題によって薄れ、ついつい幼い頃の類を思い
浮かべて独り赤面していたことに気付く。


「うるさい!進!」

進に図星されつい我を忘れていつものように怒鳴ったつくしは、
ハッと両手を口元で押さえたが後の祭。気になって老夫婦に視線
を向けると、柔らかな笑みで見つめていた。

新しく淹れなおした紅茶を一口飲んだ婦人は、今度は進の方へと
向きを変えた。

「進君はいずれお仕事をする時期が来ますでしょう。就職先を
 私共の会社に、というのはどうかしら?その為にはたくさんの
 お勉強や習い事はきっちりして頂きますけれど…。つくしさん
 と一緒にパリで」

「………?」

高校受験の事を考えていた進にとって、突然の就職内定の話に
頭の中は真っ白になる。それはつくしも例外ではなかった。


「いずれ進君には-----------------------つもりですので」

「………?」


瞬きをすることも息をすることも忘れてしまいそうな言葉。

あまりにも現実からかけ離れた内容に、つくしと進の思考回路は
完全にストップしてしまった。


「慣れるためにも余裕をもってパリに来た方が良いわね
 つくしさんは年明けから、進君は遅くても2ヶ月以内には---」


この先にも婦人の話は続いた。だがつくしと進の耳には言葉は届
かない。ただ判ることは、嬉しそうに微笑む老夫婦の顔が目の前
にあった、ということだけ。


何気なくリムジンに乗り大きなお屋敷の門を潜った

4人で交えた2時間の対話

これからつくしと進の運命が大きく変わり始めようとしていた

| | コメント (0)

2008年8月19日 (火)

PURE ANGEL[第1章] 第3話

第3話

「・・の」
「・きの」
「まきの?」


自分の名前を何回呼ばれたのか、肩を揺すられて初めて気づく、
類がいたことに。


「………はなざわ・・る・い」


どうしようもなく切なくて、つくしは類の胸に飛び込んだ。
類は無言のままつくしを受け止め力強く抱き締める。
真っ赤な目をして惨憺なつくしの姿に、類の胸は締め付けられ
切なくなっていく。


次に何が起こるのか
自分がどうなってしまうのか
わからない
わかるのは、問い掛けるのが人生だと
答えなんてない
でも理解することを諦めたらダメ
答えがないと知っていても、問い続けなくてはならない
人は先を知りたくて歩み続ける

花沢邸、類の部屋


プライドの高い牧野が人の目も気にせずあんなに泣くなんて
牧野、何があったんだよ?


俺は司だから何も言わなかった、司だから…
どんなに想っていても見守ることしかできない、この苦しみを
司、お前に分かるか?


もう見ていられない、あんな姿見たくない
表向きでも幸せなふりをしてくれないと
お前を諦められない、見守り続けられないよ


「牧野いいだろ?……俺、もう限界だよ」


つくしの寝顔を愛おしむようにじっと見つめそっと頬に触れ
類はあることを決断し部屋を後にする。

翌朝、つくしは目を覚ますと目の前に天使の寝顔があり、
パニックに陥ること数十秒。
辺りを見渡し、そして自分の身形を確認して暫しの安堵に溜
息をつく。

――ここ確か…、前にデートした帰りに寄った花沢類の部屋
  あん時と全然変わってないや

「花沢類の肌って凄く綺麗なんだね
 髪といい、女の子だったらパリコレのモデルできるね」


つくしはいつもの独り言を呟きながら類の髪に触れる。
細い指先から類の薄茶の髪はサラサラと流れ、朝日を浴びて
キラキラと輝く。その光景に魅了され呆気に取られていると、
突然、類の目が開き目と目が合う。

「わぁ、わわわぁぁ…、お・・おはよぅ」
「顔、真っ赤!熱でもあんの?」
つくしの額に手を乗せ、類はいつものようにからかう。


――あんたの顔が目の前にあるからでしょう
  この手なんとかしなさいよ


「プッ、クククッ…。おはよう」
「昨日、確か……、病院から花沢類と一緒に車に乗って…」
「あんた車に乗ったら直ぐに寝ちゃったの」
「ハハハァ…。ゴメン」


「まっ、いいけど。……で、昨日はどうしたの?」
「昨日?…ああ~昨日ね。なんの目的で病院に来るのかって
 金か、体か、ってさぁ。俺たち付き合ってるんだろ
 抱いてやるから早く脱げって。……笑っちゃうでしょ」


先程まで見せていた生彩さは消え、それでも無理して明るく
振る舞おうとするつくしに心が痛む。


――あんたが悲しいと俺も悲しいって知ってる?

「牧野、無理しなくていいから
 前に言ったろ、泣きたい時は泣きなって」
そっとつくしを胸に引き寄せて頭を撫でる。


――泣きたくないのに…、涙腺どうなっちゃったのよ


温容の面持ちと独特の空気に安心したのか、堪えていた涙が
頬を伝い類のシャツに吸い込まれていく。

「司のこと、……まだ好き?」


――聞いても仕方がないことなのに…、分かりきったことを
  俺はどうして言ってしまったんだろう
  あんたの涙は俺の感情を揺さ振る

耳元で問いかけられたつくしは類から体を離すと、遠くに視線
を飛ばし静かに口を開く。


「ずうっと考えていた、心の底から本当に好きなのか
 やっぱ好きなんだよねぇ。でもそれが愛情なのか
 友情なのか…。俺に触れることができるのは海だけだって
 あいつ、はっきり言ったんだ、それ聞いて…」

寂しそうな顔を見せるつくしに類はいたたまれず意を決し力強
く言い放つ。

「あんたの泣いている姿見たくない!俺は絶対に泣かせたりし
 ない!俺が傍にいるから、傷つけたりしないから、ダメ?」
「……えッ?」


「俺の小さい頃の話し知ってるだろ、無表情、無感情
 静や司たちで少しは良くなったんだけど、それでも感情がつ
 いていけないんだ。笑ったり、怒ったり、悲しんだりするこ
 とに。あんた見ててさぁ、俺の持っていないもの全て持って
 るんだよ、感情や表情を…
 見てて飽きないし、心に忠実で、…羨ましいのかもしれない
 牧野の笑顔を見ていると元気や勇気が出てくるんだ
 ずっと傍にいたいって、そう思ったの牧野が初めてなんだ」


「辛い時、悲しい時、いつも花沢類に助けてもらって、
 感謝しているよ。いつも頼ってばかりで都合のいい女になっ
 ちゃってたみたい。…ゴメン。あたしも花沢類の笑顔見ると
 元気が出てくる。…花沢類、あたしも笑っていたい
 雑草のつくしに戻りたい」


「プッ、学園全員敵に回してもめげないあんたなら大丈夫だよ」
「うん!」
二人は顔を見合わせて笑った。


類が聞きたかった言葉は返ってこなかったが、今こうして目の前
でつくしが心底から笑顔を向けてくれるだけで嬉しくて、だから
あえて答えを求めなかった。

――やっぱいいなぁ~花沢類の持つ独特の空気
  優しく包み込んでくれる
  嫌なこともウソのように消え
  あたしにエネルギ-を与えてくれる
  何気ない励ましが花沢類の魔法なんだよね、ありがとう

傷つかずに生きていくにはどうすればいい
人は皆必死に回答を求め生きている

| | コメント (0) | トラックバック (0)

PURE ANGEL[第1章] 第2話

第2話

非常階段でいつものように寝ている類の横で、つくしは空を見上
げて考え事をしていた。

――道明寺を連れて行かないでって神様にお願いした
  神様はあたしのお願いを聞いてくれた
  だけど…、その代償が記憶をなくすことだったの?
  道明寺がどんな思いでもいい、二人の過ごした時間を
  なかったことにしないで…。リセット…、しないで

天を見つめていたつくしの顔は徐々に俯き加減になる。

――ダメだこれじゃ…、しっかりしろ、つくし!


頭を横にブンブン振ると再び空を見上げ、大きく息を吸う。

「バカヤロォーッ!!」

病室では視線で人を殺しそうな冷たい瞳と罵声の繰り返しで、島
で過ごしたひと時の幸せとは対照的な司に、怒りと悲しみが交錯
する。だが、自分は雑草のつくし、いつまでも感傷に浸っていら
れないとばかりに怒りを声に吐き出した。

大声で叫んだことでつくしの心は軽減され、柔らかな日差しを浴
びて活力を蓄える。
しかし、心地良く夢の中を旅していた類にとっては迷惑なことで
嫌でも現実へと引き戻される。

「あッ、起こしちゃった?」
「プッ、クククッ…。前によく叫んでたよね
 俺、一気に目覚めた」
「……ごめん」
目を渋そうにしながらも笑みを見せる類に、つくしは都合悪そう
に肩を窄める。

「何かあった?」

――嫌なことがあるといつもそうやって叫んでたよな

類は愁眉な面持ちで見つめる。

「………。」


「牧野、司の島に行った時、あんた俺を抱き締めてくれただろ?
 その時思ったんだ。牧野が辛い時、絶対に力になろうって
 あん時すっげー嬉しかった、だからひとりで抱え込むなよ
 俺が話し聴いてやるから、泣きたい時は泣きな、苦しい時
 辛い時、無理するな。……俺が支えるから」

そう言って類はしつくを引き寄せて優しく包み込み、複雑な思い
で頭を撫でる。

――司でなきゃダメだって分かっていても、今は…、今は…
  花沢類が持つ独特の空気、…あったかい
  惨殺された心、傷口が少しずつ塞がれていく
  ありがとう花沢類、…もう少し、もう少しだけ…


つくしは類の胸で心が癒されていくのを感じる。

数センチの境界線、一歩足を踏み入れた時――


「こんにちは」
つくしは一人司の病室に入った。
「………。」
「だいぶ良くなってきたみたいだね」
「………。」
何も言わない司に不安を抱きながらもつくしは平然を装い明るく
振る舞う。


「今日、海ちゃんは?来てないの?」
「お前に関係ねぇ」
「あたしのこと、何も思い出さないんだよね?」
「お前、類と付き合ってんのか?俺とも付き合ってんだよな
 パンピ-のくせにいい身分じゃねか」
先程まで険しい目付きを見せていた司だったが、急に不適な
笑みを見せる。

――この顔どこかで見たことがある
  どこかで……、確か……、あッ!


過去の司を思い出した瞬間、つくしはとっさに口元を両手で
覆った。忘れはしない下校時刻の非常階段で見た獣のような
眼を。

「あれだけ言っても来るんだからな……何が目的だ?」


司に会う度に罵声を浴びせられ、恐怖と不安がいつも心を支
配していた。平常心を保とう、明るく振る舞おうと偽り、胸
を張れなかった自分。

――道明寺が罵声を浴びせるから?鋭い目付きで見るから?
  記憶を取り戻さないから?それとも海ちゃん?…いや違う
  自分が自分らしくない、無理してる原因は…、きっと…

「金か?ふっん…体か?まっ、俺たちは付き合ってるんだからな
 お前を抱いてもおかしくねよな」
「なっ…」
「何突っ立ってんだよ、服ぐれぇ自分で脱げよ」

顔を歪めて呆然と立ち尽くすつくしを、司は腕を組み、口角を上
げて楽しむかのようにじっと眺め、早く服を脱ぐよう促す。

どこまでも残忍な態度に、瞳に映っている人が本当に司なのか、
何度も疑ってしまう。
寂しくて、悲しくて、虚しくて、つくしの中で何かが弾けた。
鮮やかな記憶さえ忘れてしまいそうな


――悪夢なら覚めてほしい


つくしの願いも虚しく、床に落ちる涙が現実を知らせる。


「俺に触れることができるのは、海だけだ」

つくしは病院の廊下であることも忘れ必死に走り、近くの公園
のベンチに俯いて座っていた。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年8月18日 (月)

PURE ANGEL [第1章] 第1話


第1話

すべてを捨てても
牧野さえ傍にいてくれたら何もいらない
道明寺の温もりさえあれば何もいらない


お互い深く深く愛し
磁石のように引き合うふたり


港での事件が起こるまでは―
一人の少女の存在が大きく人生を変えることも―


なぜ人は間違いを犯すのか
自分のことしか考えなかったことの愚かさに
人は悶え苦しむ


司が刺され入院して5日後
ようやく面会ができるというのでつくしは病院へと
向かう。
早く司に会いたいという嬉しさと恥ずかしさが交差
するなかつくしは病室の前に立つ。
中からはみんなの話し声や笑い声が聞こえる。
一番聞きたいと思っていた司の声も…。


「よっしゃあッ!」
自分に気合を入れるつくしを脇で眺めていた類が楽
しそうに声をかける。
「クククッ…、何してんの?早く中に入ろう」
そう言って類は扉を開けて中に入り、つくしは後に
続いた。
みんなの視線を浴びる二人。


「おっせーじゃん!何やってたんだよ?」
「つくしちゃん、司ねぇ~後遺症ないんですってよ」
待ちくたびれたように言う総二郎を椿は軽く払い除け
ると、つくしに零れんばかりの笑顔を向ける。
「そりゃあ、犬並の回復力だもんな!」
その脇であきらはからかうように言う。


司が大事に至らずにすみ、みんなは安堵し自然と頬が
緩む。しかし、司の視界につくしが入った途端、顔色
が変貌する。
司は敵意を見る眼差しを向け、冷静な口調でつくしに
目掛けこう言い放った。
「その女、だれ?類の女?」
司が発した言葉が後に大きな影響を及ぼすことなど、
ここにいるメンバ-は知る由もなかった。
勿論、つくしも―


呆然としながらみんなは病室を出て担当医に事情を
聴いた。


レトログレ-ドアムネジア
医学の世界ではそう言うらしい
部分的記憶障害


強く考え過ぎて記憶の一部だけが欠落した
記憶が戻るのは人それぞれ違い、数日、数年
もしかすると一生戻らない可能性もあるとのこと

F3が司の病室に入ると、そこには見知らぬ顔が…。
「よぉ-司、元気か?」
「ああ、お前ら来たんか」
「…あれ?この子、だれ?」
「こんにちは、中島海っていいます。よろしくネ」
海は太陽のような眩しい笑顔を向けた。
「…えっ?なんでここにいるの?」
総二郎とあきらは少し驚きつつもいつもの笑顔で返し
類は興味なさそうにそっぽを向く。
「ここの看護師さんたちが噂しててさぁ~
 凄い有名人でイケ面だって言うから見に来たの
 どんな人かなぁ~って」
「ったく、勝手に入って一人でペラペラ言って
 うぜぇんだよッ!」
そこにつくしが病室へと入って来た。
つくしを見た途端、司の表情は険しくなり苛々が増し
て行く。司の視線につくしの体は反応するかのように
硬直し鼓動が速まるのを感じる。

――冷静に…、つくし落ち着くのよ
気を静めるように心で呟き口を開く。
「こんにちは」
つくしは苦笑いしながらも冷静さを保とうとしていた。
どんなに冷たい視線を向けられても…。
「てめぇ、誰の病室か分かって入って来てんのか?」
怒声の司を尻目に、海は笑顔でつくしの前に立ち挨拶
をする。
「こんにちは、海っていうの。あなたは?」
「あ、あたしは、牧野つくし。よろしくね、海ちゃん」
つくしも笑顔で返した。
そんな二人をF3は脇で眺める。
「おい!おめえらッ!
 話すんだったら外でやってくれ、目障りだッ!!」
青筋を出し今にも暴れそうな司を見て、
海はつくしの手を引いて病室を出て行った。

「もう、二度と来んなあ-ッ!!」
「おいおい、司、牧野は俺たちの大切なダチなんだぞ」
大声で叫ぶ司に呆れ顔を向ける総二郎。
それに付言するように類がボソッと呟く。
「司にとってもね」
「そうだぜ、あんまし辛く当たるなよ」
「あんな女知らねぇのに何が大切だ
 寝ぼけたこと言ってんじゃねよ
 気分わりぃ。出てけッ!」
3人は虚脱と同時に大きな溜息をつき病室を後にした。


あれから3週間が過ぎたが一向に思い出さない司。
日を増すごとに罵声を浴びせ、険しい目付きに
雑草のつくしとはいえ精神的にも肉体的にも参ってし
まい自然と病室に行く回数が減っていった。


あれ以来、海は毎日病室に行き、つくしとは対照的に
普通に会話をし、時には司の笑顔さえも見られるよう
になっていた。
司と海の展開に誰もが想定外のことに驚きを隠せない。


つくしの心境を考えるとガンバレとは言いがたい。
友人らはつくしを優しく見守る事と、一日でも早く司
の記憶が戻ることを願う事しかできない現状に俯く。


| | トラックバック (0)