Bride of saintly ~聖夜の花嫁~後編
後編
<あんたたちの根性、あたしがたたき直してあげる。宣戦布告よッ!>
学園生活を平穏無事にやり過ごそうと自分に何度も言い聞かせていたが、司の度が過ぎた行動が友達に向けられたことで、つくしは本来の姿を取り戻した瞬間だ。
つくしの一撃を食らった頭の痛みに、司は唖然としながらも懐かしさを覚える。
このつくしの取った行動によって、2人は道なき道の扉を開くこととなった。
<4年後、迎えにいきます>
マス・メディアによって全世界に告知した、嘘偽りのない司の言葉。
愛情を知らずに育った司はつくしと出会い、怒鳴り散らしや言い合いの連続の中で、人に対する思いやりや愛情を見出し心を成長させていった。
愛はどちらか一方が与えるのではなく、分かち合い、怒ったり笑ったりする公平な立場を保つ関係によって成り立ち、お互いの心は一つになる。
<いい男になって戻ってきたら
あたしがあんたを幸せにしてあげてもいいよ!>
強い意志を感じさせる瞳を向け、司に精一杯の想いをぶつけたつくし。
<宣戦布告だな、やってもらおうじゃん>
つくしは笑顔で返す司の広い胸に飛び込み、強く抱きしめ合ったプロムの夜。
2人の想いが一つになり、これからたくさんの思い出を作る楽しい時期に、司の留学によって2人に残された時間はほんの僅かなものとなってしまった。
片手で数える程度の楽しい思い出。
幾つ手が必要なのか、数え切れないほどの辛苦な思い出。
傍にいる時間より離れている時間の方が多く、それでも相手を想い、相手を信じ、相手を励みに愛する人に再び逢えるその日を夢みて自分の心と戦ってきた。
祭壇の前に立つ司も、扉の前に立つつくしも、その脳裏にはこれまでの出来事が走馬灯のように蘇っていた。
つくしの夢だったハワイでの挙式、その夢をクリスマスという聖なる日に叶えてやろうとする司。今その夢は現実のものになろうと動き出した。
パイプオルガンの荘厳な響きは優雅に聖堂を包み、式の始まりを知らせると同時に緊張感が高まる。
重圧な扉がゆっくりと開くと、真っ青なヴァージンロードに眩しい陽光が射し込み2人のシルエットを浮かび上がらせる。
ヴァージンロードに沿ってゆっくりと動き出す花嫁。
――ああ?・・・何でアイツが・・・
極度の緊張と喜びで舞いあがっていた司だったが、二つのシルエットに怪訝そうに眉を潜める。総二郎とあきらも司と同様に眉を潜めるが、直ぐにその意味が解ると口元を上げた。
「類もやるじゃん」
「ああ、司の母ちゃんも意地悪だよな」
花嫁の控え室から出てきた楓は、父親の代わりに類を付添い人として依頼していた。あえて類を選抜したのも、F3や司、つくしに冷たい視線を向けたのも、勝手な行動を取ったことにちょっとした報復心からであって、決して妨害しに来たわけではなかった。
楓は既に2人を認めていたのだから。
「にしても類のヤツ、ずいぶんと嬉しそうじゃねえか?」
「新郎は相当イカれてっけどな」
新婦にうっとりとしたかと思えば、類を見て瞬時に目を吊り上げ睨みつける司を見て、総二郎とあきらは何事もなく無事に式が終わることを祈った。
「汝孤独なるは悪しきこと、伴侶を与えん……」
神父が聖書の一説を読み上げ、会場内は厳粛な雰囲気に包まれていく。
「汝は牧野つくしを妻とし、病める時も共に歩み、死が2人を分か
つまで愛を誓い、妻を想い、誇りとする事を神聖なる婚姻の契約
の下に誓いますか?」
君を意識した時から 君を想い続けた
どんなに引き離されようが
どんなに冷たい瞳を向けられようが
片時も君を想う気持ちは離れたことはない
君の生き方に惚れ 君の笑顔に心が解放され
君のすべてが僕の人生
幸福も不幸も君が傍にいてこそ得られるもの
もう僕らを隔てるものは何もない
君が一生僕の傍にいてくれる
この幸せを永遠にするだけ
「はい、誓います」
「汝は道明寺司を夫とし、病める時も共に歩み、死が2人を分かつ
まで愛を誓い、夫を想い、誇りとする事を神聖なる婚姻の契約の
下に誓いますか?」
あなたを想い続けた
傍にいる時も 遠く海の彼方にいる時も
片時も忘れず あなたを想い続けた
あなたの勇気と愛情に支えられ
私は今日という日を迎えることができた
もう私たちを隔てるものは何もない
あなたと共に目覚め
あなたと共に眠りに就くだけ
片時も離れず
あなたを想い続けるだけ
「はい、誓います」
2人の誓いは指輪に込められ、お互いの薬指に通される。
そして、誓いのキスを交わす。
たった今、2人は晴れて夫婦となった。
神父の退場とともに厳粛な雰囲気から和やかな雰囲気へと変わり、新郎新婦を取り囲んだ彼らから祝福の言葉が相次ぐ。
艱難を乗り越えてやっと掴んだ今のこの幸せは、ハッピーエンドではない。ハッピースタートである。
重圧の扉が開かれ、友人らに囲まれて出てきた司とつくし。
「社長もご出席なさりたかったのでは?」
教会から少し離れた場所に車を停車させた楓は、祝福ムード一色の渦に飲み込まれ、もみくちゃにされながらも慶びに満ち溢れた満面の笑顔の息子夫婦を、車の窓越しに眺めていた。
「西田、道明寺家の跡取りの結婚式が
こんなママごとみたいなもので済むとでも」
言葉とは裏腹に、息子を見つめる視線は社長の立場ではなく母親としての視線だと、西田は感じ取っていた。
~ Fin ~
おまけ
「道明寺!どうしてあんたはいつもそう寝起きが悪のよ!」
「いってーなッ!蹴ることねぇだろう」
「道明寺が起きないからでしょ!少しはあたしの身にもなってよ
毎朝、声張り上げて、体力使って、みんな道明寺のせいなんだから」
「何だよ道明寺って?お前も道明寺だろうが」
「だから何よ?起きないのと道明寺とどう関係あんのよ?」
「はぁ~。なんで朝になると呼び名が変わるんだよ、・・・ったく・・・」
「やれやれ」
呆れたように呟くタマ。
つくしの怒鳴り声は道明寺邸の厚い壁や扉をも通してしまうようだ。
「いつまで経っても成長しない2人だこと」
「タ、タマ、勝手に入ってくんじゃねぇ!
あ、あの最中だったらどうすんだよ?」
「ほぉ、寝起きの悪い坊ちゃんが朝からねぇ~」
「なっ、なんだよタマ?俺だって自力で目覚めるときぐれぇあんだよ」
「タマの耳には、毎朝つくしの怒鳴り声が聞こえますけどねぇ
空耳だった……」
「ああ!!面倒くせえなッ!だからここに住むのはイヤだったんだよ
口うるせえのはいるし、アイツらは勝手に入って来るし
プライベートも何もあったもんじゃねぇな!」
「司、そんな目くじらたてて怒ることじゃないでしょ
家族みんなで住んで、楽しいことで笑い合って、足りない部分は
補い合って、嬉しいことがあったらみんなで分かち合って、そう
やってひとつ屋根の下で暮らすのが幸せなんじゃないの?
・・・ワガママ言うんじゃない」
「朝から騒々しいわね」
「お母様、おはようございます」
「つくしさん、司さんはいいから朝食にしましょ」
「ええそうですね、お母様」
「おい!なんで俺を置いてくんだよッ!・・・つくし!!」
「坊ちゃん、つくしは坊ちゃんだけのつくしではないようですな」
司とつくしが結婚してからの楓は、家族といる時間を大事にしたいと思うようになり、自然と日本に滞在する機会が多くなった。
仕事一筋だった以前の楓では考えられないほど、母親としての役割を楽しんでいるかのように、タマの目には映っていた。
――やっとこの家も普通の家庭の温かさを持つことができたようだ
「司さんも席に着いたことですし、さぁ食事にしましょう」
長いテーブルの端と端に座って食事をしていたのは過去の話、今は片方の端に楓、つくし、司の3人がかたまって食事をする風景が日常のものとなっていた。

