愛は神より強し 最終話
最終話 すべては心の中に
「う~ん・・・」
つくしの頬にかかる髪を脇に寄せたせいか、俺の腕の中で寝返りを打ち密着していた肌と肌の間に隙間ができた。小さな白い肩を胸に引き寄せて、また俺の腕の中に収める。
「う~ん・・・なんかあつーい」
「つくし、おはよ」
透き通るような白い柔肌に唇を落とし、同じ空間で朝を迎えて挨拶が出来たことに、俺は嬉しさを隠すことができない。
「おはよう、類」
つくしは微笑をたたえて答え、俺の裸の胸に顔をうずめる。
お互いの肌が密着し昨夜のことが思い起こされると、つくしの頬は赤みを帯びる。
「暑いの?それとも何か思い出した?」
「類のイジワル」
すべてを曝け出して愛し合った昨夜。
一生忘れることのない大切な思い出を刻んだ夜。
そして、同じ空間で目覚めた朝。
「あたしシャワー浴びてくる。・・・えっと、・・・Tシャツは・・・」
胸を隠して体を起こし、Tシャツを取り上げて着たつくしは違和感を覚えた。
「あれ?・・・・・・神様は?」
「ん?あっ、いない」
「これって類のシャツじゃないよね?」
目障りで溜息の根源だった神様、カエルは跡形もなく消えていた。
そう言えば昨夜つくしが寝た後、アイツ俺のとこに来て話したんだった。
「おい、おまえ!俺様を無視しやがって
この後どうなっても知らねえぞ」
「そんなこともう関係ないよ、俺たちの未来は俺たちで創る」
「ふんっ!いっちょ前のセリフ吐きやがって
・・・まっ!しょうがないって言うか、予定通りって事だな」
「予定通りって、何それ?」
「俺様のミッション遂行が成功したってこと」
「はあ?」
「俺様がなんのためにここに居たと思うんだ?」
「アンタの力とやらで恋を成就させるため、でしょ?」
「う~ん、残念。俺様はそんなことはできないのだ」
「えっ?じゃぁあの話はウソ?」
「まぁ全てが嘘とも限らねぇが、俺様に出来る事はすべてやったぜ」
「アンタのしたことと言えば
俺をつくしに触れるのを阻止しただけじゃん
短い手で突っ張ってさ、くくくっ・・・」
「ムッ、まぁそれもある」
「あと何かしたっけ?」
「何かって、もう結果が出たろうに」
「結果って俺たちの今の状況のこと?」
「そう、お前たちは将来を約束したんだろ?
そう仕向けたのは俺だってことだ」
「・・・・・・?」
「お前の嫉妬深さと独占欲を利用して
拍車を掛けるように仕向けたんだ
それに対してお前自身がどう受け止めるか
どのような行動を起こすのか、それとも俺様の力に頼り
ただじっと何もせ時を迎えるだけなのかの違いなんだよ
すべては心の中にある
想いや願いを現実に叶えるためのタイミングを
俺様が与えたって訳だ
だから俺様には不思議な力など最初から存在しないんだよ」
「ふ~ん、不思議な力なんてなかったんだ
その割りには偉そうだったよね」
「フン、これでも神様だからな、人の心を見抜く力はあるんだ
まぁこれで結婚まで成就出来そうだし
俺様は次の野郎の所にでも行くぜ」
そう言ってアイツは暗闇の中に消えて行った。
――ってことは・・・、次の野郎のとこってことか?
「ねえ類!・・・類!聞いてる?」
「・・・・・・ああ、・・・それでつくしの話って」
「神様が消えたの」
俺は昨夜神様と話したことをつくしに伝えた。
「ふ~ん、そういう事だったの
じゃあ、もう私たちには何も起きないのね?」
「いや、これから起きるよ」
「えっ?ウソ!・・・だって何も起きないハズじゃあ・・・」
「つくし、こっちにおいで」
俺はつくしをベッドに誘った。
その日の昼過ぎに来客があった。
「類ッ!あのTシャツのカエルに何したんだよ!?」
総二郎が血相変えて飛び込んで来た。
「どうしたって、どうもしないよ
でも、俺とつくしはうまくいったのは確かだけど」
「つくしって・・・、そうか良かったな。って良くねえ!見ろッ!」
そう言ってシャツのボタンをはずしてみせた総二郎の胸の辺りに、見慣れたマーク、いや、アイツがすました顔して収まっていた。
「今日、昼前まで寝てたら
〝若い美人のお客様が会いに来ましたよ〟って呼ばれた気がして
慌てて昨日脱いだシャツを着たら、・・・・・・カエルが・・・
あのカエルがへばりついていたんだぞッ!」
俺たちは唖然としてカエルを見る。
――次の野郎って、総二郎だったんだぁ
あまりのおかしさに思わず噴き出しそうになったけど、マジな総二郎を見て俺は口元に手を当てて笑いをかみ殺した。何気に隣を見ると、つくしも俺と同じ様な動作をしていることが、笑いに拍車を掛ける。
「それに客なんかいなかったし
今にして思えば、コイツが俺を呼んでハメやがったんだ!
類・・・、俺はどうしたらいいんだ?
お前らうまくいったんだろ?・・・助けてくれ
俺はまだ恋を成就させるつもりはないんだ、情事ならともかく・・・」
頭を抱え込んで背を丸める総二郎って、司がらみ以外で見た事あるだろうか。それにしてもこんな状況になっても、情事は頭から切り離すことは出来ないんだ。
「総二郎、もうどうにもならないよ
諦めて覚悟を決めるしかないね
約束を破ると酷い目に遭うのは間違いないからね」
「そうだよ、西門さんもいつまでも遊んでないで
もっと自分を大切しなよ。刺されてからじゃ遅いんだから
優紀を悲しませたら承知さないからね!」
「なっ!」
「あたしが知らないとでも思ってるの?」
「お前・・・何を・・・」
「お生憎様、西門さんの所にそのカエルが来たってことは
そうゆうことでしょ?誤魔化してもダメだよ」
「へえ~、総二郎が・・・そうなんだ。俺知らなかった」
「うっ。・・・牧野・・・、お前鈍感女じゃなかったのかよ」
「つくしは総二郎のことよく見てるんだね
俺以外の男のことを気にしてたなんて・・・
なんか俺ちょっと複雑な気分
つくし、これからは俺だけをその瞳に映して」
はにかんだつくしの頬を両手で包み、滲んだ瞳に映る自分を見つめる。うっすらと開いた唇が俺を誘惑しているようで、その衝動に素直に応じるようにキスをする。
――人前で牧野がキス?・・・大胆な行動もコイツの所為なのか?
「お前らな・・・、俺の存在忘れてねえか。・・・ったく
ここに来た俺がバカだったのか・・・にしてもこれからどうするんだ」
頭を抱える総二郎に類とつくしからのアドバイスの言葉がかけられた。
「西門さん、何も悩む事なんてないんだよ」
「そう、自分にとって何が一番大切で、いつもそばに居てほしい人が
誰なのかを素直に行動に表すだけでいいんだよ総二郎」
「あのTシャツはそのきっかけを作ってくれるだけで
恐れずに挑戦してみなよ、弱気な西門さんなんて似合わないよ」
「似合う似合わないの問題じゃねえだろうが・・・」
「もしも総二郎にまだ結婚する気がないんなら
そんなTシャツ脱いでしまえばいいんだし」
つくしは一瞬、おやっ?と思ったが、類のウィンクを見て理解した。
――同じ目に遭わせたい?・・・じゃあなくて
優紀にも幸せになって欲しいと思ってのことよね
「えっ?でもそんなことしたら大変なことが起きるって・・・」
「心配いらないよ、つくしも一度着てすぐ脱いでしまったけど
ほら、なんともないでしょ」
「そうよ、あたし全然大丈夫だし」
「そうなのか?・・・でもなぁ・・・」
ブツブツと独り言を言いながら部屋を出ようとした総二郎の胸の辺りで、アイツはニヤリと不敵な笑みを浮かべてウインクをしたのを、俺は見逃さなかった。
~Fin~

