あたるも八卦 後編
後編
いつものように学園に行き、いつものように授業を受け、F4に遇わないように行動範囲を最小限にとどめ、何事もなく学園生活を終えて帰り支度をする。
ここまではいつもと変わらない、ここまでは。
いつもと違うのはつくしの心の中だけ。
――最初に下の名前で呼ぶ人があたしの未来の旦那様に
そんなことが本当にあり得るの?
しかもあのF4だよ、全ての面で世界が違いすぎる
たかが占いって笑い飛ばせたらどんなに楽か、そう割り切れないのがつくしの悪い癖だ。あれ以来つくしは占い師の言葉が耳から離れず、何をやっても集中できないでいた。
そんなある日の下校時のこと
今日もいつもと変わらない日となるはずが思いもよらない展開に・・・。
「まきの~ッ!こっちこっち!」
正門へ続く中庭を通り過ぎようとした時、樹齢100年とも言われるポプラの太い幹の下からつくしを呼ぶ声がした。
「あれは、・・・西門さんだ。・・・美作さんもいる。・・・なんだろう?」
近くに行ってみると、ポプラの木に背中を預けて2人で暢気にお茶を飲んでいた。
「何やってんの?」
「牧野もここに座ってお茶でも飲めよ」
「牧野、突っ立てないで座れば」
総二郎はペットボトルを片手に紙コップを差し出す。
「う~ん」
――まったくこの人たちの考えていることはわからん
「別に酒飲めって言ってんじゃねぇんだからよ、ほれ」
「う、うん、ありがとう
あんた達っていつも強引だよね、困った人たちだ」
バイトの時間までと思い、つくしは2人の目の前に腰を下ろすと総二郎からお茶を受け取る。
「困った人と言えば、ここにもう1人いるぜ」
ポプラの木の裏側では、静かな寝息を立てて眠りこける類の姿があった。
「まったく類のやつ、暇さえあれば眠っちまうからな」
「ほんに幸せなヤツだぜ」
「あれっ、1人足りなくない?・・・道明寺は?」
「司か?そのうち来るんじゃねえ
それより牧野、最近お前見かけなかったけど、何してたんだよ」
「えっ?・・・あっ、あたしだっていろいろ忙しいのよ
勉強とかバイトとか・・・」
――まさか占いのせいでF4を避けてた、なんて言えないし
でも嘘は言ってないし・・・
「勤労処女は何かと忙しいようで・・・、たまには息抜きも必要だぞ」
「おッ、あれ司じゃねぇか?・・・つかさーッ!!」
声のする方向に気付いたらしく、司がこっちに向かって来る。
枝葉を茂らせた隙間から時折木漏れ日が差し込み、爽やかな風が身体を掠める。慌しい日常生活を送っているつくしに忘れかけていた自然の和みが心地よく感じられる。
だが、司を呼ぶ総二郎の大声によってこの後、静穏な時の流れは打ち消され、すっかり忘れていた占い師の言葉を思い起こさせる出来事が起きようとしていた。
その幕開けとして、類の寝返りから始まった。
「むにゃむにゃむにゃ…」
「あいつ等、あんなとこに居たのかよ」
F3とつくしの居る場所に司の足はどんどん近づいていく。司を追うように小走りで駆け寄る、もう1人の人物も近づいていた。
「こうゆうのもいいもんだなぁ。今度みんなで山にでも行かねぇ?」
「そうだな、うまい空気でも吸いに行くか。牧野も一緒に行こうぜ」
類の脳は微かに聞こえた〝牧野〟という言葉に反応して、夢の世界から現実の世界へと目覚めようとしていた。
司がつくしたちの居る場所まであと10メ-トルという所まで来た時に、声が・・・。
「○※▽、#※◇…△※◇~※」
起きぬけのトロンとした目に映ったあるモノを見て類が何かを呟いている。
「○※…、#※◇…」
――ん?だ、誰かあたしの名前呼んだ?
その言葉は司の方から発せられた声と類の声が同時で、つくしの耳には確かな言葉は届かない。
徐々に近づいてくる司の方から聞こえる声、その声に木霊するかのように直ぐ近くから聞こえる声。
「あっ・・・、つくし・・・」「ああー、つくし・・・ちゅわ~ん」
――うっ、うっそー、道明寺・・・が?・・・へ?
微かにつくしの耳に届いたその言葉は5.1チャンネルサラウンドスピーカーから発せられた音のように頭の周りをぐるぐると回っている。
「〝つくし〟だよ」
――びぇーッ!花沢類、アンタまで。・・・っていつのまにか起きてるし
「なに寝ぼけてんだよ〝つくし〟じゃねえ、ただの木の枝だろうが」
「そうだぞ類、この時期に〝つくし〟はないっつーの」
――西門さんも美作さんもつくしって、一体なにがどうなったの?
「つくしちゅわ~ん、探してたんだよ~」
司の大きな体に隠れて見えなかった和也が、泣きべそをかきながらつくしの元へ駆け寄った。
「こいつ〝つくしつくし〟ってうぜぇんだよ!・・・ったく・・・」
――道明寺も和也くんも・・・
あんたたち、自分が何言ってんのか分かってんの
「なぁ~んだ〝つくし〟じゃなかったんだぁ」
「だから言っただろ〝つくし〟じゃねえって」
「つくしちゅわ~ん・・・」
「どいつもこいつも〝つくしつくし〟って・・・、うるさあーいッ!!」
「なんだアイツ?働きすぎで疲れてんじゃねぇ」
「そうらしいな。ここは牧野のためにもさっきの話、煮詰めようぜ」
怒ってその場を後にしたつくしの小さくなる背中を眺めながら総二郎とあきらはそう言うと、バカンスの計画を練り始める。
結局誰が最初につくしと呼んだのか、いや、それ以前に占い師の予言は真実だったのか・・・。その答えはそれから数年後に明らかとなる。
「つくし、今日はちょっと遅くりそうだから先に休んでていいよ」
「うん分かった、じゃあ何か軽い夜食でも用意しとくね」
「ありがとう。・・・つくし、愛してるよ」
「あたしも・・・、お仕事がんばってね」
そう言ってつくしは受話器を置いた。
「今日は独りで夕食かぁ」
仕事なんだからと自分に言い聞かせる。
ひとり寂しく夕食を摂った後、入浴、夜食の準備を済ませてソファに身体を落ち着かせる。静寂さを打ち消すようにテレビの電源を入れ、適当にチャンネルのボタンを押す。
「今のままでは絶対に夢はつかめない、名前を変えない限りは……」
占いの偉い先生が芸能人に向かって言いたい放題を言って盛り上がっているシーンが映し出された。
「名前を・・・って、あの時のことを思い出しちゃうな」
6年前に聞いた、あの占い師の言葉が脳裏を掠める。
〝お前さんのことを、最初に下の名前で呼んだ男が
お前さんの伴侶になるのじゃ〟
「まさかとは思ったけど・・・、占いは当たった?・・・いや、偶然?」
現在つくしは占い師の言葉通り〝つくし〟と呼んだ男性と結婚して、幸せに暮らしていた。
「不思議なこともあるものね」
つくしはその時のことを振り返って感慨に浸っていた。
ピンポーン
「あッ、帰って来た!」
つくしは急いで玄関に行き、ドアの内鍵を開けて愛する夫を出迎える。
「ただいま、つくし」
「お帰りな・・・あッ・・・んん・・・」
玄関に入るや否や濃厚なキスでつくしの言葉までも飲み込んでしまう。
「遅くなってわりぃ、俺様がいなくて寂しかったか?」
うっとりと閉じていた目を見開いて、目の前の夫の顔をじっと見る。
「つくしちゅわ~ん、寂しかったよ~。・・・・・・つくし、寂しかったよ」
――かっ、和也くん?・・・・・・えっ?そっ、総二郎?
「つくし、なに驚いてんの?」
「る、るい?・・・類・・・、あたし・・・」
「つくし、お帰りのキスは」
類の顔を見て安心したつくしは、いつものようにキスで出迎えた。
「んんん・・・、・・・・・・ん?あ、あきら?」
「つくしちゅわん」
「やめてッ!」
「どうした、つくし」
「寄るなぁ~ッ!」
「つくし・・・」
「来るなぁ~ッ!」
「つくし・・・」
「つくし、・・・大丈夫?」
「いやだ~。・・・・・・へ?・・・・・・あれ?」
気がつくとベッドの上で布団を押しのけて座り込んだ自分がいて、寝ぼけ眼を擦りながら周りを見ると、目をまん丸にした類が傍にいた。
――もしかして、・・・夢・・・見てた?
なんとか状況を飲み込めたつくしから安堵の溜息がもれる。
「悪い夢でも見たんだね、相当暴れてたよ
布団も俺もベッドから蹴り落とされるし。一体どんな夢見てたの」
「あたしが類を?・・・・・・ゴメン、類
類だと思ったら道明寺が帰って来て、いつものように・・・
でも直ぐに総二郎が・・・。類もいたんだけど、あきらになって
・・・・・・あッ!道明寺・・・なんでもない」
司との濃厚なキスシーンを思い出したつくしは、慌てて口元を塞ぐように手で隠した。
真っ赤な顔をするつくしを見てピーンときた類は嫉妬心に火がつく。夢でさえ自分以外の男性がつくしに触れることは許しがたきこと、見逃すわけにはいかない。
「ふ~ん。いつものようにって、こうゆうことしたんだぁ」
拗ねたように言いながらつくしの顔に近づいた類は、夢の中で司がしたであろう濃厚なキスをお見舞いする。
とろけるようなキスでつくしの身体がへなへなと崩れ落ちそうになると、類は優しく背中と頭を支えてその場に寝かせ、自分は体を重ねるような格好でつくしの動きを封じた。
「つくし、どんなに愛したら分かってくれるの?」
「・・・えっ?類、急にどうしたの?」
見開いた瞳のつくしに真顔の類が映る。
「イヤなんだ、たとえそれが夢であっても」
――俺以外の誰かと共有してほしくないんだ
自分の言った言葉に照れたように頬をやや赤く染めながらも、つくしの身体の真上から瞳を真っ直ぐに見つめる。
「・・・類、そう言われても・・・、夢だけはどうにもならないよ」
「俺はつくし以外瞳に入らないのに・・・」
――俺の方がつくしを何倍も何十倍も愛しているから
「俺だけをその瞳に映して、夢の中でも俺だけを」
――どんなに愛してくれているか分かってるよ、類・・・
つくしは類の首に手を回し、耳元で囁く。
「あたしはいつも類だけを見てるし、類だけを愛してる」
このつくしの言葉に類の気持ちは落ち着きを取り戻し、穏やかな心を取り戻した。が、この後つくしの口から出た言葉に、消えそうになっていた類の嫉妬心を再び呼び覚ますことになる。
「それに、夢の中ではあんな事になっちゃったけど
類が一番よかった」
「つくしぃ~~~!」
――あれ、類どうしたの?あたし今、なんか余計なこと言った?
~Fin~
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