つかさっち&るいっち 第1話
第1話
「みんな~っ!教室にもどりなさ~い!」
「つくし先生が呼んでるわよ、つかさっち、るいっち
早く行かないとまた怒られちゃうんだからね」
アリの巣に細い枝を差し込んでアリを釣り上げる遊びに夢中になっていた2人には、つくし先生の言葉は聞こえていなかった。
「いいんだよ
だってつくし先生が怒ってもちっとも怖くないんだから
そうだよな、るいっち?」
「うん」
「わたし知らないからね!」
「おまえなんかあっち行けよ」
ほっぺたをふくらませて呆れた顔でその子は走り去った。
「カンナちゃんっておせっかいだよな」
「でも、ちょっとカワイイけど・・・」
「えーッ!るいっちはあんな気の強い女が好きなのか?」
「ちがう!・・・ボクが好きなのは、・・・・・・つくし先生だよ」
「・・・えッ?るいっちはつくし先生が好きなの?」
「うん」
「ふーん、でもダメだよ、つくし先生を好きなのはボクだから」
お帰りの時間が近づくと、園庭から戻ってきた子供たちは手を洗い、うがいをして帰り支度を済ませておとなしく席に着いていた。
ここは英徳幼稚園
この幼稚園には、著名人の親を持つ子供や裕福な家庭の子供たちが集まっている。習い事をしている子も多く、礼儀や作法もしっかり身についている。
また、建物そのものや装備備品に至るまで一流のものが取り揃えられていて、一般レベルの幼稚園とは一線を画するものだ。
「せんせー、つかさっちとるいっちがまだでーす!」
伊集院まひるちゃんは主のいない席を指差して得意そうに声をあげた。
(はぁ~またあの2人か、まったくもう・・・いつもこうなんだから)
つくし先生は窓に近寄り園庭を見渡すと、案の定、いつものもみの木の下に座り込んで座談会をしている2人の姿を確認した。
(あの問題児2人には手が焼けるのよねぇ~)
その問題児とは
漆黒の瞳に天然パーマのドレッドヘア、同世代より少し背は高く、脚も長い容姿を持つお山の大将的な存在で、口が悪く横柄な態度でワガママ放題の生意気小僧が道明寺司。通称、つかさっちと呼ばれている。
ビー玉みたいなセピア色の瞳に薄茶色のサラサラヘア、寝ることが大好きで宝物はベッド。口数が少なくおとなしい半面、融通が利かなくて頑固な一面を持っているのが花沢類。通称、るいっちと呼ばれている。
牧野つくしはこの子供たちと接し始めてまだ3ヶ月、園長先生はじめベテラン保育士たちにいろいろ教わりながら毎日生き生きと子供たちと接しているが、理想と現実とのギャップに悩むことも少なくない。
子供が大好きでこの道を選んだつくしだが、子供たちと遊んだり、粘土をいじったり、絵を描いたりしてればいいなんて甘い考えは通用しないことを肌で感じていた。
自分の小さい頃と比べることなんてできないほど、あまりに育った環境が違いすぎるこの英徳幼稚園の子供たちには、思った以上に神経を使わされている。
十人十色というけれど、こんなに幼い内から親の期待を一心に背負い、あれこれと知識を詰め込まれている子供たちは、画一的でどこかロボットのような印象を受ける場面も多々ある。
将来を約束された子供たちは、既に英語やピアノやパソコンなどを習っているのが殆どで、いっちょ前に大人びた口の利き方をし、どこか見下したような態度をとるそんな園児たちの中にあって特別なのが、司くんと類くんだった。
つくしは他の園児たちからハミ出たこの2人を、実はとても気に入っていた。尖った性格でやんちゃな司くんと角がなくまぁるい性格の類くん、そして2人ともかなりの頑固者。他の園児たちがおとなしくて行儀が良すぎるから、この2人は特に目立ってしまうが、逆にこの2人の方が子供らしいと感じていた。
性格は正反対なのに、なぜか2人はウマが合うのか仲がいい。
「ダメって言ってもダメ!ボクはつくし先生と結婚するんだから」
「ダメって言ってもダメって言うのはダメッ!
ボクの方が先に好きになったんだから!」
想いを寄せる相手が同じ人だと知ってしまったつかさっちとるいっちは、つくし先生をめぐって男同士の争いが始まっていた。
「つかさっち、ズルイ!」
「るいっちにはカンナちゃんがいるだろ
さっき、カワイイって言ってたじゃん」
「あんなの子供じゃん、ムリムリムリ」
「とにかくつくし先生はボクのものだ!」
「い~や、ボクのだッ!」
「やるかッ!」
「イヤだ」
「じゃぁどおすんだよ」
「勝負だ」
「やるのか?」
「ケンカなんてしないよ、そのかわり別な方法で決着をつけようよ」
「別な方法?」
「そう、たとえば・・・」
「司くん、類くん、いい加減にしなさい!みんな待ってるのよ」
(あっ、つくし先生が呼んでる)
(ヤバッ、行かなきゃ)
「あとで電話するから」
「おお」
そそくさと教室に戻った2人は何事もなかったかのようにお別れのあいさつをして、それぞれのお迎えの車に乗り込み帰路に着いた。
その夜
「もしもし花沢ですが、司くんをお願いします」
少しして司くんにつながった。
「るいっち、どう?何かいい方法考えた?」
「うん、つかさっちは?」
「ボクも考えてみたけど・・・、まずるいっちから言ってみろよ」
「いいよ、勝負は先に先生にキスしたほうが勝ちっていうのはどう?」
「う~ん、いいけど・・・。簡単すぎてそれだけじゃダメだな」
「じゃあ、つかさっちはどんなこと考えたの?」
「つくし先生の方からキスされた方が勝ちになるのは?」
「・・・それもいいかも。・・・あとは?」
「あとは・・・、そうだ!
つくし先生とデートすることができたら勝ちとか」
「デートって?」
「デートを知らないのか?るいっちはまだ子供だなぁ」
「おまえだって子供じゃん」
「ムッ!と、とにかく、デートっていうのはだなぁ
2人で街を歩いて、そのあとコーヒーを飲むんだよ」
「ボク、コーヒー飲んだことない」
「とにかくそうするのがデートなんだ!」
「ふーん。・・・あとは?」
「う~ん、まぁそんなところかな」
「それじゃあ、デートはともかく
つくし先生にキスできたら勝ちにしよう」
「え~っ、それじゃ簡単すぎるよ。・・・たぶん」
「じゃあつくし先生にキスされたら勝ちにする?」
「う~ん・・・、・・・そうだっ!その2つを足せばいいんだよ」
「足すっていうと?」
「だから、つくし先生にキスするのと
キスされるのができたら勝ちにするんだよ」
「うん、それでいいよ
先に両方とも成功した方が勝ちになるんだね」
「どっちが勝っても恨みっこなしってことでいいよな」
「うん」
「デートは勝った方がすればいいんだから、それで行こう!」
「よーし、それに決まりッ!」
つくしがどう思おうと、もはやこの2人には関係ないようだ。
小さな胸に芽生えた恋は、年齢差や相手の気持ちなど全く気にすることなく、それぞれが幸せなバラ色の未来を夢見ていた。
「ボクはつくし先生と結婚して
そして2人で世界一周の新婚旅行をするんだ」
「ボクはつくし先生と結婚して
そして2人で世界一大きなベッドで眠るんだ」
初恋成就に向けて戦いの幕があがろうとしていた。

